家啖い

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 忠右衛門の方が、あきらかに緊張していた。  槍をかまえているだけなのに、どんどん呼吸が荒くなり、肩の上下動も大きくなっていく。  対する狐十郎は、悠然としていた。  かまえた銃も、ピタリと静止している。  微動もしないこと、まるで絵画のようだった。  先に仕掛けたのは、忠右衛門だった。  鎧を鳴らせて、猛然と、突きかかった。  狐十郎が、引き金を絞った。  種子島の火皿で火花が咲いて、銃口が火を噴いた。  忠右衛門の突進が、止まった。  熊のような唸り声。  忠右衛門の口からだ。  忠右衛門は、ふたたび走り出した。  槍の間合いに達すると同時に、一閃。  光の線になった槍の穂は、狐十郎の胸には届かず、石畳をしたたかに突いた。  槍は、折れた。  前のめりに倒れてきた忠右衛門を、狐十郎が受け止めた。  親子は、抱き合って膝をついた。
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