家啖い

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「いやしかし、おなごの一人旅とは、物騒でござるな」 「いざとなれば、牛の背に乗って逃げまする」 「なるほど。  よし」  忠右衛門は、家来の二人を指名して、命じた。 「摩利藻殿を、当家にご案内いたせ。  今夜は、当家にお泊りいただく」 「犬村殿」  勝手に話が進むので、とまどう摩利藻に、忠右衛門は白い歯を見せて、 「もうすぐ日が暮れ申す。  当地は田舎ゆえ、ろくに泊まる場所もござらん。  おなごをひとりで野宿させてはしのびない。  なに、礼にはおよばん。  夕餉の肴に、旅の話でも聞かせていただければ、十分じゃ。  ついでに豆腐のひとかけらでも食わせてもらえれば、ありがたき幸せ、じゃな」
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