家啖い

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 忠右衛門は、顔のすぐそばを銃弾が通過したときの衝撃で、一瞬ふらついたが、両脚をふんばって耐え、家来のほうへ、手を差し出した。 「槍をもて。  成敗してくれる」  さすがにそれは、と尻込みする家来の手から、愛用の槍を奪い取って、忠右衛門は、頭の上で大きく回転させてから、脇にたばさんだ。  堂に入った槍さばきである。  どっしりとした腰の落ち着きといい、長年の鍛錬の蓄積が、微動もしない槍の穂先に光っている。 「犬村殿」 「止めてくれるな、摩利藻殿。  恥ずかしながら、あれなるは、我が不肖の息子。  これは父と子との避けられぬ戦なのでござる。  種子島が相手では、勝ち目は薄いが、是非もない。  愚かなり忠右衛門、と笑ってくだされ」 「それは一向にかまわぬのですが。  わたくしの牛が」 「牛?」
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