家啖い

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 ふりむいた忠右衛門は、鉄砲よりも恐ろしいものと対峙する羽目になった。  地面の石ではじけた、二発目の銃弾。  そのときに砕けた石の破片が、摩利藻の連れている牛の腿に、深々と突き刺さっていた。  ちなみに、この牛、 「鬼六(おにろく)」  という名前である。  その怪力、鬼六匹分に相当する、という意味だ。  鬼六は、怒っていた。  腿をえぐられた激痛に、白目が真っ赤に染まるほど激怒した鬼六は、その怒りの持って行き場を探して、後足で土煙を蹴立てていた。 「普段は温和な牛なのですが。  こうなると手が付けられませぬ」  いちはやく鬼六から距離をとった摩利藻は、手をメガホンにして、忠右衛門たちを気遣った。 「お気をつけて」  死者が出なかったのは、不幸中の幸いだった。
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