家啖い

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「鉄砲の腕をご覧になったろう。  あいつは、やれば出来るのだ。  磨けば光る、みごとな玉になれるのだ。  なのに磨かぬ。  磨こうとせぬ」  と涙を流して慨嘆する。  鬼六、大暴れ。  の大惨事を、どうにか数名の負傷者を出しただけでのりきった後、忠右衛門自身の案内で、摩利藻は犬村家に迎えられた。  鬼六の傷は、さほど深くはなかった。  いちど思う存分あばれてスッキリしたのか、めりこんだ石の破片を摘出するときも、傷口に薬を塗るときも、鬼六はおとなしかった。  いまは、犬村家の馬小屋で、清潔な寝藁を与えられ、ぐっすり休んでいる。  もともと生命力には過剰に恵まれている牛なので、回復も早い。  三日もすれば、また荷を背負って旅ができるようになるだろう。  それまでの間、摩利藻は犬村家に客分として逗留することになった。
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