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ひと月が過ぎ、ふた月が過ぎた。
田植えの季節が来て、それも過ぎた。
村の田には水が張られることもなく、雑草が生い茂るまま、放置された。
妖怪に、動きはなかった。
山から下りてくることもなかったが、どこかへ去ることもなかった。
農業ができないなら、ほかの手段で稼がなければならない。
村人たちはそれぞれのツテを頼って奉公先を探し、みつかった者から一人、また一人と、町や都に旅立っていった。
「ならん」
と、侍たちは、この奉公にもケチをつけた。
「これから討伐隊の方々を迎えようというのに、村をもぬけの殻にしようとはなにごとだ。
だれが、おもてなしをするのだ」
「田んぼもできねぇ、奉公もできねぇ、じゃ、年貢が」
「口を開けば年貢、年貢と、ほかに大事なものはないのか」
侍Aがいきり立ったが、村人たちも命懸けだ。
侍Bが刀の柄に手をかけたのを、これ以上の刃傷沙汰はさすがにまずいと思ったのか、侍Aは止めた。
侍Aは最大限の譲歩として、見張り役と接待役に若い男女を計十名、残すことを約束させ、その他の村人の奉公は許すことにした。
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