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今日は、一段と海風が強い。
シューは身軽にボロボロの柱に上って陸地を見やり、荒れ地が見えるとかあれがキノコの森かな?なんて叫んでいるが…風の音が邪魔して聞こえない!
「僕も!僕も!」と叫んでみるが、シューの方にも聞こえてはいないだろう。
上れないのはわかっていても、とりあえず柱にしがみついてセミ状態だ。
風のせいで、近くにいる筈の母さんの声も流れて行く?
わぉぉおおおん!!!
風にも負けない程大きく高い母さんの遠吠えが、僕達に危険!と伝えた。
と、同時に。シューが上から降ってきた!
慌ててその身体を受け止めたが、身体の大きさが此処まで違うと…肩と後頭部を甲板にしたたかぶつけて起き上がれない。
シューも腕があらぬ方向を向き、脚からも血が流れている。そして、その首には…ラッパ型の…これって、吹き矢?
流れるシューの血に混じって微かに感じる臭いは?エーテ領で怪我人や虫歯の患者が出た時に麻酔代わりに使う、シビレカエルの毒の原液に近い…。
急いで首に刺さった針を抜いて、傷口に唇を着けて吸出したけど…ペッ!と血は吐き出したのに、口の中が酷く痺れる。
『○※△×!!!』
不意の、狼とは違う唸り声に顔をあげる。
剥げてヨレヨレのライオンの獣人が、シューの背中で大きく剣を振りかぶっていた。
恐らく…これは、馬鹿王に付き従っていたライオン貴族の残党だ!
振り下ろされる剣に、重いシューを引き摺って逃げる事もままならず…思いっきりシューを横に転がして、その上に彼を庇うように乗っかった。
熱い痛みが背中を滑る。残党は嫌な笑いを浮かべて、僕達を甲板から海へと!!!
『ガウッ!』と母さんが残党に噛みついた!
『クソッ!吹き矢一本では足りなかったか…。』
残党はひとりだけではなかったようだ。
爪で残党を切り裂くが…他の残党が僕達を海へと投げ捨てた!
一度海に沈むと、泡立つ水面の光の中に母さんが…。
僕が出来るのは、シューを掴む手を放さない事だけ。真っ赤に染まっていく水中に、辺りはまったく見えなくなっていく。
僕の視界も段々と、赤から黒へと変わって行った。
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