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うっすらと目を開ける。目蓋と頭が重く背中が痛い。
左手を伸ばせば細い腕に触れ、 右手を伸ばせばやわらかな胸に触れた。
ずいぶん窮屈なベッドだ。随分と揺れるのに、クッションが固くて…まるで、板の上に薄布を張っているだけみたいだ。
それに、狭いし…。母さんの添い寝はわかるけど、シューの怪我は重症だったはずだ。
僕の怪我はどの程度だろうか?切られる寸前で、母さんが助けてくれたんだろうか?
何とか目を開いた。目の前は真っ白な布が覆い被さっている。
母さんの首と脇腹に吹き矢が数本刺さっている。背中の痛みに堪えて、なんとか吹き矢を抜いた。
痛くて熱いのに、冷たく感じるのは背中が濡れているせいだろう。
「この布は?………。」いつも僕の傍らにあるあの布だ。
様子を見たくて、首をシューの方へ…い、痛い…。
波の音が聞こえ、身体を動かしたいのに動けない。
布が煩くて息が苦しいけど、この布には治癒と癒しのスキルがあるって母さんが言ってたから、大丈夫…。
お腹が空いて喉が渇くから息苦しいだけだろう?
「母しゃん?」
返事をするのは波ばかりだ。
「シュー?」
返事の代わりに、鳴き声と唸り声が帰ってきた。
僕の方に母さんがいるから心細いのかもしれない。
波の音が聞こえる。
シューの不安を消してあげなくちゃ。身体は動かないから、場所を変わる事はできないけれど。
背中は痛むけど、手を触れる事はなんとかできるから。
不安を掻きけすように…波の音が…き、聞こえるから…。
僕、口が回らないから、食べ物の歌は難しいし今は何も食べたくない。
ぐらぐらユラユラする頭で…波の音を…?
小さな頃?愁牙と春人がふたりだけで泳ぎに行って、僕と冬磨は砂で作ったプールの中でヨットを浮かばせて遊んでいて、星夏と麗夏は落とし穴を作ってお母さん達に叱られている。
遊び疲れて揺られる車の中から、海を進む船が見える。船は段々と大きさを変えて僕達の方へ近付いてくる。
遠くの波はキラキラ光って…遥か遠くへ向かう船が小さくなる。
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