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親友に雷を落とされて、その年の冬は終わった。エーデルの頭にマリアナの叱責と嘆きが蘇る。
「五年よっ?! 五年っ、それだけ付き合っていた相手への仕打ちがそれ!? いったい何があったって言うのッ!?」
その五年が、薄暗い路地裏に連れ込まれて終わった。昔では想像もできなかっただろう。
マリアナには年明けすぐにでも話をつけろとせっつかれた。
娼婦は現在、自身の携帯電話と見つめ合っていた。紳士はというと、何ひとつとして口を挟んでこなかった。なぜ? 答えは簡単だ。あの一件は、あくまでマチルダとその恋人の問題だったから。
彼は、ただあの場で「今日はわたしの相手をしてくれるはずだった」と咄嗟に出任せを言っただけ。そしてマチルダが勝手に着いて行っただけだ。
つい溜め息が漏れる。
エーデルの携帯電話には、まだベンジャミンの電話番号もメールアドレスも残っていた。着信音もそのままになっている。恋人だからと、彼だけ変えていた。
どんな文章を打ち込んだらいいのだろう。あるいは何から話し始めればいい? まず、連絡はつくのだろうか? エーデルは何ひとつ分からなった。
もしかして親友に相談すべきだった? ――いいえ、答えは「ノー」だ。あの紳士すら口を挟まなかったのだ、それをマリアナに? 彼女は十中八九エーデルの味方をするだろう。実際はどうであれ、少なくともベンはそう考えるはずだ。
彼女は悩みに悩んでメールを送信した。携帯電話の画面が切り替わり、『送信中』の文字が点滅する。ここで再び「送信できませんでした」と受信ボックスに放り込まれるか、それとも……?
携帯電話には、無事に『送信しました』の文字が表示された。娼婦が頭を垂れて息を吐く。
紳士には内緒にしておこう。きっと、まだ解決していなかったと知れば嫌われるかもしれない。それに彼だっていい気はしないだろう。エーデルは、そう結論づけた。
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