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娼館を訪れることもマチルダを迎え入れることもなくなった青年は休日を持て余していた。
本棚にあるいくつかの小説も既に一通り読み終えてしまった。そういえば彼女はオースティンが好きだったなと思い出す。
娼婦は自らに学がないとしていたが、ベンはそれは違うと知っていた。彼女は地頭が良いタイプなのだ。しかし社交場の男たちは、そういった女を好まない。
ゆえに彼女はマチルダとして馬鹿に振る舞ったし、そのほうが楽だと話していた。
ところが、その実は娼婦が文学書を好む女だということを知ったならば、あの男たちはどんな顔をしただろうか? これもマチルダには分かりきっていたに違いない。
以前、彼女から勧められていた小説はまだすべて集められていない。ベンはまだ元恋人の影を追っていたかった。
「………本屋にでも行くか」
こうして彼は散歩がてらに街へ繰り出した。
結局、目当ての小説は見当たらなかった。古書店を回るべきだったかとレジの前を通りすぎる。
まだ高校を卒業したばかりといった様子の女の子が二人、立っていた。そのうちの一人はいかにも純朴そうで出口へ向かうベンを目で追っている。
なんとかして引き止めたいのだろうなということは、彼の経験から分かった。
後一人は既に垢抜けていた。こちらも同様にベンの気を引きたがっていたが、積極的にウインクを飛ばす。
ベンジャミンは、それを微笑んで流した。
美男子の微笑みには威力がある。
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