第三罪:三角関係

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 空は徐徐に青色から橙、濃紺へと移り変わりはじめていた。グラデーションが絶妙で美しい。  ちょうど青年が少し先の空に目をやっていたときだった。ふと聞き覚えのある声がする。声の響きかたや大きさから、そう遠く離れてはいないことが分かった。  ベンが周囲を見渡す。誰だろうか? どこにいる? 休日の夕方は人通りが多い。  しかし彼はすぐに見つけ出すことができた。栗色の髪が風に揺れている。ああ……あの娼婦()か。そんなふうに車道を挟んだ向かいの通りを見た。  車が二車線を行き交い、時おり視界を遮る。……隣に男がいた。「マチルダの……」ベンは声をかけようとしたが、相手は息を呑んでいた。  驚きで目を丸くして、隣の男の手を強く握り直す。二人は指まで絡ませていた。  なんだ、恋人がいたのか。  マチルダには親友も彼女とともに()()を出たと聞いていた。仲が良さそうなので、いい引き取り手のようだ。  ベンジャミンは安堵したが、それが大きな間違いであることは知る由もない。  栗色の髪をした娼婦は隣の男を引き摺るようにして逃げ出した。「……待って?!」ベンが声を上げる。なぜ逃げるんだ? どうして?  美男子は呆気にとられた。  一組の男女が青年から逃げていく。その瞬間、男だけが彼をじぃっと見ていた。まるでベンジャミンの顔を目に焼き付けるかのように――――。
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