第四罪:秘密

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「泣くか怒るかどっちかにしろっ……ですかね。電話口で泣いてる相手に………」  肘をついて青年が項垂れた。レグルスは『恋人とした最大の喧嘩』と『その対処法』を知りたかったのだ。紳士と二十代の若い男女では感性が随分と異なる。  彼はまだ二十三歳で、その恋人は四つ下だったはずだとレグルスは記憶している。 「なんか、頑張りすぎちゃったんですよー……お互い。いいところ見せたくて無理したっていうか。遠距離だったし」  部下もまた、酒の力で(じょう)(ぜつ)になっているらしかった。金の心配をせず、個室にして正解だったなと紳士は思う。 「きみ、大学はアメリカだったかな?」 「それに彼女も、あっちこっち飛び回ってたり………だから時差とか。ろくに会えもしなけりゃ電話も難しいとかで……」  アルフィーはみるみるうちに舌っ足らずの声になった。酒には強いはずだが、照れもあり、かなりのハイペースで飲み進めていたようだ。 「それから?」  紳士はさりげなく酒と水を入れ替えた。 「すっげえ腹立ってたから絶対こっちから連絡寄越すかよって三〜四日かな? そのまま放ってた……ら……来て、(うち)に。アメリカなのに」  これには紳士も驚いた。「女優なのに?」「そう。連絡もなしに」アルフィーが頷く。 「玄関開けたらいて。泣きそうな顔して立ってて………そっから話をして、ねぇこれ参考になります?」  部下の眼差しが不意に鋭さを取り戻した。「年寄りは微笑ましく思うよ」と答えた。 「パパラッチとかに売らないでくださいね」 「もちろん」  爛と光る目がいっそう細くなり、次の一瞬には柔らかい三日月の形に変化した。アルフィーが「へへっ」と笑う。 「あー………なんか、こんなに話したのって久しぶりだな。レグルスさん」 「なにかな?」 「俺の彼女って、めちゃくちゃ可愛いんですよ」 「ああ。世界中の男がそう思っているだろうね」  なにせ相手は『銀幕の天使』だ、容姿もさることながら演技力も素晴らしい。十代半ばにして最も著名な映画賞を獲得したのだから。  また「ハリウッドの黄金期に最も近い女優」とも言われている。  ふにゃふにゃと笑う部下が「アンタも惚気けてよ」と催促した。  レグルスは部下の話を聞くだけで満足した。八つ当たりの罪滅ぼしとまでは言わないが、可愛がっている部下だ。自慢話はさせてやりたい。  すっかり酒が回った様子の部下がテーブルに突っ伏す。「まだ惚気けていいの?」ころっと丸い碧眼が紳士を見た。まなじりも頬も赤らんでいる。 「端的に言うと?」 「結婚してえ」  最後に二人は、こんな言葉を交わした。
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