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第二罪:同棲
カーテンが光を受け止めた。陽射しがほんの少し、弱くなる。
「………う」
しかしその眩しさに、ぎゅっと目を瞑った。
ぼんやりとした意識の中で最初に目に飛び込んできたのは、くしゃくしゃになったシーツと緩く巻かれたブロンドの髪が垂れて――――……?
デジャビュだ。
娼婦はこの感覚を知っている。くしゃくしゃのシーツから柔軟剤が香る。
朝は血圧が下がり、一段と頭の回転が悪くなる。以前とは違い酒も呑んでいないはずだった。しかし頭が痛いのはなぜなのか。脳の皺が伸ばされた気がする。
寝過ぎだ……
髪を掻き上げた彼女は顔を上げた。視界がぼやけている。そこへ、やや呆れ気味の声が降ってきた。
「やっと目が覚めたか……」
「あ」
「おはよう、マチルダ」
………マチルダ? そう呼ばれたとき、娼婦に少し違和感があった。あれ? 私、マチルダって言ったっけ? 表情が険しくなり、目と鼻と口が顔の中心に寄る。
「どうした?」
紳士が不思議そうに娼婦の顔を覗く。
「いいえ、なにも。……あ……」
娼婦が視線を落とす。彼女は自分の格好を見て青ざめる。おそるおそる口を開いた。
「もしかして、また……?」
「今回は大丈夫だよ」
「……でも、なんで?」
紳士は大丈夫だと言ったが、ならばなぜ自分は、またもろくな衣服をつけていないのだろうか?「それを聞くのか」彼が溜め息を吐く。
「君が羨ましいよ。何ひとつ覚えていないとは……」
二人は明け方の間際に紳士の家に着いた。その途端、娼婦は玄関先で倒れ込む。熱でもあるのかと心配になり、額に手を当てたがその様子はない。
「おいっ、大丈夫か!?」
「だめ……限界」
結局、彼女はそのまま眠りについたのだ。
「君をベッドに運んでいたんだがね。そのときに――――」
娼婦は無事にベッドまで運ばれたが、堅苦しいと言ってその場で衣服をすべて脱いだのだった。
「何の拷問かと……君は、その……とても自分を解放して眠るんだな」
「ええ、そうなの。ごめんなさい」
「おかげで、まるで眠れなかった」
紳士が言葉を濁す。確かに彼女は就寝時に衣服を身につけない習慣があった。毎日のように男の相手をしていた上、そのほうが楽だと気がついたのだ。
彼は「まぁ習慣なら……」と口髭を触る。なにやら物言いたげな表情をしている。
「その……格好を、もう少し何とか……」
「ああっ」
娼婦が声を上げ、紳士は「それこそ拷問だ」と笑った。
ベッドの上の女がフローリングを指差す。
「下着、取ってくださる……?」
「またかっ!」
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