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最後の記憶はついさっき。
デパートで買い物中、ふと懐かしい顔を見た気がしてそちらに目をやるとそこには初恋の相手がいた。大分容貌は変わっていたが高校時代の面影はある。
彼の隣には女性が一人。そちらにも見覚えがある。会ったのは一度だけだけれど、それだけあの時の印象は強力だったのだろう。
三十秒も経たずに二人の姿は見えなくなり、彼は最終的にはあの時の女性と結ばれたのかなどと思いながら買い物を続ける。
買い物を終えて店を出たところでさっきの二人が少し離れたところにいるのを見付けた。
どうもこれから別行動をとるらしく、別々の方向へ歩き出す。
こちらに歩いてきた彼女と目が合った。不自然なほどに注視していたわけではないが、引っ掛かりを覚えたのか彼女の足が止まる。
こちらを見つめて首を傾げていたが数秒で思い出したような素振りを見せたところから察するに、自分が刺そうとした相手の顔は記憶に残っていたらしい。
お互いが思い出したところで旧交を温めるような間柄でもない。
そのまま会釈でもして別れる筈だったが、その前に彼女の顔に恐怖の色が浮かんだ。
視線は私の顔からは逸れている。焦点は多分私のずっと後ろ。
声をかける間もなく彼女は踵を返し、早足で歩きだした。
あの表情は前にも見た気がする。
少し考えてすぐに思い出した。刃物を持ってこちらに向き直った後の表情。
深呼吸をしてから、ゆっくりと後ろを振り返る。
五m程離れたところに見慣れた顔。目が合って少し首を傾げながら手を振ってきた。
少し驚きではあったがさっきの彼女の反応から察するにそういう事なのだろう。
距離が残り一m程になったところで声をかける。
「初めまして、パラソルヒーロー。」
その言葉に足を止めたパラソルヒーローはちょっとした逡巡の後、ゆっくり微苦笑を浮かべた。
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