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昇降口に着くと、水嶋は持っていた私の傘を丁寧にたたみ、下に向けて持ち手をくるくると回して水滴をとった。
「さっこ、この傘すごいな」
水嶋は傘の水滴を払いながら、驚いたような顔をした。
モネの睡蓮の傘は、水に濡れると花の色が浮き出る仕組みになっているので、水を払っている今はゆっくりと時間をかけて、色が戻っていっているところだった。
「それ素敵だよね。一目惚れして買っちゃった」
「睡蓮は、モネが晩年目が見えなくなってもずっと描き続けた作品なんだよな」
「そうだよね。水嶋も知ってるんだ」
「あ…うん。美術の教科書に載ってた」
水嶋は照れ臭そうに口の片側を少し上げて笑った。そんなこと美術の教科書に載ってたっけ。後で見てみよう。
「でもいいな。こういう雨の日は街全体の色が暗くて、どんよりしてるからさ。さっこが傘さすだけで、ここらへんが色付くじゃん。」
「おおげさだなぁもう」
私もつられて笑顔になる。そういう考え方も全部、本当に全部大好き。
「傘ありがとな」
「いえいえ」
丁寧にたたまれて、はいと突き出された傘を受け取る。
「水嶋、左の肩結構濡れてるじゃん。大丈夫?」
「あー、うん。へーきへーき。」
私は自分のカバンを拭こうと思って持ってきた大きめのフェイスタオルを、水嶋に渡した。私はあまり濡れていないので、ちょっと申し訳ない気持ちになる。
「それ使っていいよ、風邪ひかないようにね」
「…ありがと」
水嶋はタオルを手に取った後、すぐに目の前の私の頭にタオルを載せ、ポンポンと優しく水滴を取った。
驚きすぎてなんも声が出なくて間抜けな顔をしていだと思う。私の顔を少し覗き込んでから、またニッと笑ってタオルを自分の首にかけた。
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