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 『グリコ』……。ジャンケンをして、グーで勝ったら三歩進む。チョキかパーなら六歩進む……。  今、僕たちがいる広場に敷き詰められた石のタイル、三十センチ四方程のそれを、一歩と見なす事になった。ゴールは三十歩先。二十九歩目が広場の終点で、三十歩目はコンクリートの通路になっている。先にそこまで辿り着いた方の勝利。そして……、負けた方は、おそらくこの世から消える事になるのだ。  僕とアリス――つまり西之宮さんの体に宿る何か――は、タイルを一枚挟んで、ゴールから同じ距離の所に、向かい合って立った。 「体があついわ! ドキドキするわ!」  アリスが目を爛々と輝かせながら言う。 「生きるか死ぬかのジャンケン勝負ッ! いっくよ~~!」  僕はちらりと広場の先を見た。ゴールまで三十歩。チョキかパーなら五勝。グーなら十勝……。 「ジャン……!」  アリスが掛け声に入った。このゲーム……、グーとチョキ・パーでは歩数に倍の差がある……。グーで勝つのはメリットが小さい……。六歩進めるチョキかパーで勝ちたいと思うのが普通……。そしてチョキ対パーならチョキが勝つ……。  つまり、チョキが最も効率の良い手……!  ……しかしその、多く出されるであろうチョキに勝つのが……、ポイントの小さいグー! つまりグーは、最も勝ちやすい手……!  そしてパーは、相手の思考、つまりグーのタイミングを読んで繰り出す、ハイリスクハイリターンのカウンター……! 「ケン……!」  どうする……? 負けたら僕は殺される……! そして西之宮さんも、きっとこのまま……! 「ホイッ!」  僕が出した手は、チョキ……。対するアリスは……。 「アッ!」  アリスが声を漏らした。パーだ……! アリスの手はパー! 「やったッ!」  僕は思わず声を上げた。勝ったのだ……! 「う~~! くやしい!」  僕は嬉しい……! チ・ヨ・コ・レ・イ・ト……。思わず頭の中で一文字ずつ呟きながら、僕は小股でタイルを進んだ。先制スタートだ……! しかもチョキで……! 「フンだ。じゃあ、つぎ、いくよ~?」  アリスが言った。……次もできればチョキかパーで勝ちたい……。が、彼女がそうはさせないはず……。 「ジャン……!」  十二歩離されるのを、アリスは絶対に望まないだろう。僕にチョキでもパーでも勝たせたくない……。 「ケン……!」  彼女はチョキを出せば、その最悪の結果を避けられる。アリスはチョキを出す……。ならば僕が出すのは……。 「ホイッ!」  グー。僕の手はグー……。 「キャハハハッ! お兄ちゃん、たんじゅん~!」  彼女の手はパー……! しまった……! 完全に読まれてた……! まさか何のためらいもなくパーを……! 「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル!」  アリスはくるくるとステップを踏みながら、再び僕の隣に並び立った。 「さ! しきり直しね!」  僕は唇を噛みしめた。せっかくのアドバンテージが……!  ……だけど、これで分かった……。安全策では駄目だ……。そうだ、彼女も言っていたじゃないか……。西之宮さんは、あの時はっきり言っていたんだ……。求めていたんだ。必要なのは……。  自分の全てを賭ける覚悟。  即ち、勇気だ……! 「どんどんいくよ~~!」  僕の愛する人に似た何かが叫ぶ。雨は止んだままだったが、空の色はどす黒く、彼方から雷の音が聞こえてきた。
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