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ピエロ
「ねぇ、君はなんで嘘ついたりするの?」
「う~ん、そうだなぁ.....ピエロ、だからかな」
「ピエロ.....?」
大丈夫 大丈夫。ピエロを演じるんだ。だって、僕は小さなサーカスの名もないピエロなんだから。
『あんた、キモイ。近寄んないで』
『は?気安く話しかけないでよね』
私は必要とされてない.....どこに居ても独りなんだ.....
「でも、一人は寂しいよ..... ひっく、ぐすん」
よぉーし!今日もここで練習するぞー!
あれ?誰か居る? 女の子?
もしかして、泣いてる?
よし!これを使って笑わせよう!
私なんて..........
「ねぇ、そこの君!」
「.....わたし?」
「そうそう!君!見てて! ほら!」
僕は真ん丸お月様みたいな赤いボールの上をバランス取りながら乗っている。
「ほら!みてておもしろいでしょ?
って うわ!?」
しまった。転んでしまった。失敗かな.....
いっつも、ハデに転んでばかりで怒られてるのに、ここでもダメか。カッコつかないな.....
「ふふ.....あはは」
笑ってくれた.....?笑われるのが僕の仕事だからよかった。
それから月日が経ち、僕も少女もおとなになった。僕は今、立派なピエロになってたくさんのところでピエロを演じてる。
今日は久しぶり、あの子のいる街でショーを見せるんだ!楽しみ!
「今日は集まってくださり、ありがとうございます!皆様を退屈させたりなどしないように頑張りますので、ぜひ最後まで見ていってください」
今日、いるかな? あ!居た!美人になったなぁ。綺麗だ.....はっ!ダメだ。集中しないと!
でも、なんか.....泣いてる? あの子は確か、親とは離れてるんだよね.....でも今は集中しないと!
「では、皆様!いきますよ!」
僕は子供の頃みたいに赤いボールの上に乗り、玉乗りしながらボールでお手玉をしている。みんなが楽しそうに見てくれるのは嬉しい。でも、君だけは悲しそうな顔で笑っている。まるで、泣いているかのように。
客席で泣いてる君を見つけてしまったあの日から『そんな悲しい顔はしないで』とずっと思ってた。
パパもママも知らない、君の涙に気づいてしまった。だから、僕が拭ってあげたい。
「まだまだこれからですよ!」
君が笑うのか今は分からないけど全力でやるから見ててほしい。そう、思っていた。
『あれから、上手になったね』
「おい、何を見ている」
「あ.....いえ、何も」
「あいつはあの時のピエロか.....」
『気に食わん。お前なんぞ居なければ』
「おい、そこの子供よ。あいつに石を投げてぶつけろ」
「え、でも、いいの?」
「あぁ。いいんだよ」
『いいのだ。あいつさえ居なければいいのだ。あいつさえ、消えてしまえば』
「よし、行くぞ! えい!」
「ほら!まだまだこれからですからね!」
君を笑わせたい。そんな想いの中、僕は無我夢中にやっていた。
「おい、帰るぞ」
「はい.....」
あ!待って!まだまだこれからなのに!君に見て欲しい!行かないで!
そう心の中で叫んでたら、石が飛んできた。その石は僕に当たった。僕は転んでしまった。
「あ.....そんな!!」
「おい、早く帰るぞ」
大丈夫 大丈夫だよ。こんくらい痛くも痒くもない。君が笑ってくれるなら。
大丈夫 大丈夫 無様に転ぶなんて昔よく見てたでしょ?だから、悲しい顔はしないで。
「うえーん!ままぁ!!」
「よしよし。大丈夫だよ」
「やぁ!ほら、見てご覧」
「ぐすん」
「ここに指を置いて、パッチンするだけで ほら!花が出てきた!」
「うわぁ!!凄い!ねね、どうやったの!?」
「ひ・み・つ」
「..........あの、私は買い物してから帰りますのでお先に」
「分かった。早く帰ってくるんだぞ」
「はい」
なんとか無事にショーを終える事ができた。よかったぁ。いてて、大きい絆創膏で止めておくか。
「失礼します.....」
「はいは~い」
僕は声が聞こえた方へと振り向くと彼女が居た
「君、どうしてここに」
「.....して」
「ん?」
「どうして痛いのを隠すの!どうして嘘をつくの!」
「.....逆にどうしてそんな事を聞くの?僕が嘘ついてようが、ついてまいが、君には関係の無いことじゃない?」
「貴方のうそが悲しいの.....それだけじゃダメ?」
その理由で君は悲しい顔をするの?どうして僕のために悲しむの?僕は笑っていてくれるだけでいいのに。
「.....あはは」
「なんで、笑うの?」
「おもしろいからだよ」
「わたしは真面目に!」
「大丈夫!嘘なんて一つも吐いてないよ」
「また、そうやって嘘を吐く」
『嘘を吐いてない』と言っても言わなくても君は泣きそうだからね。せめて、このぐらいの嘘は許してよ。
「明日、大きな開場でショーをするからおいでよ。婚約者さんと一緒に」
「うん。行けたら行くね」
来てくれる事を信じて、練習しておかないと!
僕は夜通し練習した。君だけのために.....
今回は綱渡り一輪車がある。落ちないようにしないとなぁ。
「..........お前なんかにアイツを渡さないぞ」
いよいよ、本番だ。頑張らないと!来てくれてるかな?僕は気になりちょっと客席を見た。
あ!来てくれてる!いつも以上に頑張らないと!
「それでは皆様、今からこの縄を一番で渡ります!落ちないようにバランス取れるかの勝負です!見てください!」
大丈夫、あれだけ練習したんだ。きっと、上手くいく。
いいぞ、そのまま進め。縄が切れた時、お前の最後だ
よし、このまま慎重に.....
《ブチッ》
え?縄が.....切れた.....?嘘だよね?落ちてる訳ないよね.....
でも、切れてる縄が見える、その縄もどんどん離れてく.....あぁ、僕は落ちてるんだ。ここで、死んでしまうのかな。君を笑わせる事もできないまま
《ドサッ》
「キャー!」
「落ちたぞ!!」
そんな.....!!
わたしは走って彼の元へ駆けつけた。
「ねぇ!しっかりして!」
あぁ、また泣いてる。笑わせないと、言わないと.....『大丈夫』って
「大丈夫だよ、痛くないよ。こんな事よくある事でもあるからね。失敗なんて慣れてる。だから、泣かないで」
「どうして、昔みたいに泣いてくれないの.....
どうして、嘘をつくの?」
「むかし?」
「ずっと仮面を付けていたから気づかなかったけど、小さい頃、泣いてたでしょ?」
「気づかなかった.....?」
「わたしは、あの時、泣いてるあなたを抱きしめた」
え.....そんな、あの時の女の子は君だったの?僕がずっと探してた女の子は.....君だったの?
「だから、強がらないで。一人で泣くのが嫌ならわたしも一緒に泣いてあげる」
あぁ、君だったんだね。君が今、見つけてくれた.....忘れかけてた、僕の本当の顔。
「大丈夫、大丈夫だよ」
その言葉はまるで、魔法の様だった。
「ありがとう、大好きだよ」
「わたしも.....大好き。あなたのことは忘れない。ずっと.....忘れない」
もう、嘘吐きピエロは居ない。どこにも居ない。会いに行こうとしても会えない。
嘘吐きピエロもう、消えて居なくなった。
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