西川天羽の溺愛

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  『私のママンと君のママン、そして君の瞳はお揃いだ』  幼い頃から、祖父はいつもそう言って僕を抱きしめた。  お会いした事は無いけれど、北欧出身の曽祖母は、いわゆるアース・アイの持ち主だったらしい。鏡に映る僕と同じ、灰色の中にオレンジとブラウン、光の入り方でブルーも絡まる複雑な色の虹彩。  この瞳は母・シシィから、母は二代前の曽祖母から受け継ぎ、そのお陰で祖父は母の事も僕の事も溺愛した。   曽祖父、トマス・ハリスはアメリカの音楽をカナダに運ぶプロモーターで、エッジレコードの基礎を作った人。祖父はそれを更に大きく成長・発展させ、一大グループ企業に育て上げた人だ。  僕らの父は日本人で、元々はカナダ国内の銀行員だった。現在はエッジレコード・ジャパンの社長を務めている。母との結婚は随分反対されたそうだけど、子ども達に甘々な名前をつける程度に情熱家な母を前に、祖父もついには折れたのだとか。  子どもの頃、うちはごくごく普通の四人家族なんだと思っていた。父の勤務先に程近いケベックシティで生まれ育ったし、祖父母の家と言うものはどこでもみんな大きなお屋敷なんだとばかり思い込んでいた。  ただ、天音がスイスの学校へ行ってしまう時は酷く寂しくて、なんで家庭教師のままではダメなんだろう?と幼心に疑問だったのを覚えている。
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