西川天羽の溺愛

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   ハリス家の男子が代々通ってきたスイスの寄宿学校(ギムナジウム)を『男色行為に耽り校内の風紀を著しく乱した』かどで放校処分になったのは17才になったばかりの頃。これは祖父の力を以ってしても覆せなかったようで、随分嘆かれた。  でも嘆きたいのは僕自身。返すがえすもヴィンタートゥールでの学校生活は竜宮城のように楽しかった。まったく惜しい事をした。ここまでの人生を振り返ってみても、あんなハレムのようなパラダイスのような、素晴らしい時間はない。だって好みの美少年がいっぱい生息してたんだもん☆  金髪碧眼、ブルネットにアンバーアイズ。伝統ある制服に身を包んだ子鹿ちゃんたちが甘い匂いでいつも僕の傍に(はべ)って………それはもう幸せな日々だったんだから。  傷心の僕はカナダには戻らず、父の故郷、日本で引き籠もりになった。  でも、祖父や天音はもとより叔父たちまで、親族一同僕に甘い。メープルシロップのように甘過ぎた。入れ替わり立ち替わりわざわざ海を越えてやって来ては、何でもホイホイ与えてゆく。  本が欲しいと言えば本。パソコンが欲しいと言えばパソコン。ギターが弾きたいと言えば部屋が防音になりプロのギタリストが教えに来た。ドラムも同じ。打ち込みじゃなくてちゃんとレコーディングしてみたいと言えばプロ仕様のスタジオが用意され、その時集められたミュージシャン達がJIBの原型となった。  そして祖父は『ドニは経営より、アーティストの道が向いていたんだね』とサンタクロースのように笑って、僕の破綻したパンクロックを誉めそやした。  我ながら、これぞ馬鹿ボンだと思う。でも満たされてはいなかった。  自分でも贅沢だとは思うけど、鬱屈したアレコレを音楽(とセックス)で発散し、18才になったらすぐに背中にタトゥーを入れた。せっかく名前が天使の羽なワケだし、名刺代わりとばかりに背中から腰までの大きな翼を彫って貰った。
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