西川天羽の溺愛

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   日本は好きだった。  夏の蒸し暑さは堪らなかったけど、それ以外は概ね暮らしやすい国。食べ物も男の子も美味しいし☆  父方の祖父母や親戚もとても優しい人達で、居心地の良さに自分のもうひとつのルーツを感じたりもした。このままずっと日本で暮らすのも悪くないかな~と思っていたら、カナダに呼び戻された。  母が旅先のフランスで倒れ、還らぬ人となったんだ。急性心筋梗塞だった。  母はいつも明るく前向きで、とても優しかった。  カナダと日本を行き来しながら更にあちこちを旅して周る活動的な人だった。  誰からも愛され、そのぶんもっと大きな愛をみんなに返す、素敵な人だった。  花のような光のような存在を失い、家族は悲しみに暮れた。 「ドニ・シルヴィー……」  シルヴィーは母のミドルネーム。『Sylvia』の愛称ではなく、祖父は灰色の瞳の事を『Silver Eyes』と表現する。それを名前に変形させた造語だから、僕の事も時々こう呼ぶ。 「シシィは君の中に生きてるんだね」 「おじいちゃま……」 「どうか泣かないで。その瞳が濡れているとシシィがもっと生きたかったと泣いているようで辛い」  その後間もなく祖父は会長となって隠居し、まだ27才だった天音に家督を譲った。  のちに知った事だけどハリス家は長子先権が家訓で、母がいずれは後継になる予定だったそうだ。でもまだ四十代で早世してしまったので、その息子が代襲で全てを受け継いだ。叔父達の強固なサポートがあるとは言え、天音の重圧は未だ大きいと思う。
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