世界は12時に終わり、午前3時に始まる。

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世界は12時に終わり、午前3時に始まる。

 一日の終わりと始まりが何時か、という問いは大半が夜の12時と答えるだろう。世界が何度終わっても、始まっても、大半の世界で、知的支配者達はそう答える。  しかし私は知っている。  世界の終わりは夜の12時で、世界の始まりは午前3時である。  ナイトタイムも営業しているオープンカフェはカップル御用達だ。  まして場所は海辺で、ちょっとこじゃれた建物が並ぶ、上品な街灯りに照らされた場所ともなれば尚の事。  ざざん、ざざぁ・・・と波の音が心地良い。カフェ内を流れる穏やかなジャズも上品だ。  客席テーブル一つ一つが適度の距離を開けていて、お互いの空気を邪魔しない。  そちらで、こちらで、密やかな笑い声や、甘やかな空気。  今このカフェで恋人達の空気を楽しんでいる者達は、このさらに後、ホテルなりあるいはどちらかの家でなり、もっと甘い時間の計画でも立てているのだろう。  ―――そんな時間が、実は絶対に来ないのだとは知らずに。    店内でたった一人、ぽつんと座る己は目立つだろうな・・・と杏樹は思う。  最初に腕時計を確認して、それからライトアップされた時計塔を見上げる、どちらも時刻は11時30分。  世界の崩壊が始まるまであと30分。  杏樹は時計の一番上で暢気に鎮座している12の数字を睨む。12は砦だ。不吉の数字である13を封じている。けれども凌ぎきれるのは一日の内で一度きり。  明るく天の光が差し込む昼間だけ。夜の闇の前には砕けてしまう。  軟弱ものめ、と詰るのはたやすく。――しかして世界はそう“成って”いるのだから、どうしようもない。  例えばここで、平和を疑わない周囲の一般人に向けて、「世界があと30分で終わる、早く逃げて!」と叫んだとて、杏樹が変人扱いされて終わりだ。  警察を呼ばれて、杏樹が捕まって、そうして30分後には杏樹を捕まえた警察ごと世界は終焉に飲み込まれる。警察の無い世界では、自警団だとか、軍隊だとか、とにかく結果は変わらない。―――過去、三百回ぐらい実践してようやく諦めた。  そもそも、世界丸ごと終わってしまうので、よしんば逃げたとて、逃げ切れるわけがない。  だから杏樹にできるのは大人しく12時を待つ事だけだ。12時を待って、終焉の始まりを迎え討つだけだ。  ちなみに現在約3京敗0勝である。いい加減飽きたい。
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