秘密の拠り所

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心も体も疲れてきて、家への道をとろとろと歩いていた。最近は仕事ばかり、それも自分が何をやっているのか見失うほど、夢が見えなくなってしまった。 足元ばかり見て歩いて、ふと、立ち止まった。なんか、今、視界の端っこが色を変えたような。夜の闇の中を歩いていたところだったが、急に鮮やかになったきがしたのだ。 顔を上げてみた。そのとたん、私の心臓は一瞬止まるかと思われた。 花を飾ったアーチが白昼の光を浴びていくつも並んでいたのだった。そして遠くの方にはひらけた場所が見える。まるで、その空間に誘うかのよう。 どういうこと? 声をだそうとしても、出なかった。 風が背中に吹き付ける。そのアーチをくぐっていき、ひらけた場所に行きなさいと後押しするようだった。その後押しをうけ、私は前に進むことを決めた。 白のアーチに赤や黄色、色とりどりの花が咲き乱れる。その鮮やかさは、どの季節でも見れないのではないか……。 アーチを不思議そうに眺めながら、最後のアーチをくぐった。 目の前に広がっている風景。それは……。 森の中にひらけた緑の芝生。ところどころ咲き乱れる小さな花たち。さらさらと音を立てて流れる小川。それを汲み取る木でできた水車。 太陽に照らされてキラキラ光る風景に私は思わず息をのんだ。 ……あれ、どこかで見た覚えがあると、私は感じた。だが、それをどこで見たのかはわからない。生まれてこのかたこんな場所に来たことはないのに、と、思うのに。 ゆっくりした足取りで緑の芝生を踏んでみた。疲れた足を包んでくれるような感覚が足から伝わってくる。一歩、また一歩と進んでいく、歩きたくなる。 ちょっと歩くと、もう一つ、目を惹くものがあった。それは、ポツンと立つ、木でできた小さな家。屋根に風車がついたデザインの変わった家だが、ここに来ていることがもう不思議でいっぱいだから、さほど気に留めなかった。 近づいてみて、人を探そうか。しかし、窓からそっと覗いてもだれもいないようだった。 私は思い切って扉を開け、その中に入っていった。
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