充電

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「澤くん…あのさ」 「何だよ?」 いつになく真剣な面持ちで話し掛けてくる藤倉に、俺も何事かと少し身構えてしまった。相談事か? すごくどうでもいいけど、こっちのキリッとした表情の方が格好良いなこいつ…。 「あのさ、ちょっとだけでいいから…ぎゅってしてい」 「だめ」 やっぱり今日も、藤倉は藤倉だった。 「そんな食い気味に拒否られると流石にちょっと傷付くんだけど!何で?何で駄目なの」 「真剣な顔で何を言い出すかと思ったら…寧ろ何でそんな事言い出すんだお前は」 「何でって…充電したいから」 「はぁ?ならコンビニでバッテリー買ってこいよ。それか駅前の、」 「違うよスマホじゃないよー。俺の充電」 「何お前、実はアンドロイドとかなの?言ってる意味がさっぱり分かんねぇ」 「澤くんを充電したいんだよ」 「残念ながら俺にそんな機能ついてねぇよ」 「あるよ」 「ない」 「ある」 何でこいつはこんなにも俺にくっつきたがるんだろう。スキンシップが好きなんだなとは前々から思ってたけど、度が過ぎることも多々あるしちょくちょく心配になる。皆にもそうって訳じゃあなさそうだけど、俺の前じゃたまにこんな風に子どもっぽい要求をしてくるのも謎だ。 その内捕まっちゃうんじゃないだろうか。 「ないってば。しつっこい!大体お前、そんなに誰かとくっつきたいんならさっさとこ、」 「こ?」 「あ、いや…」 そんなにスキンシップが好きなら、人とくっつきたいのなら、さっさと恋人なり何なり作ってしまえばいい。数え切れない程告白をされ続けている藤倉ならそんなの簡単に出来るだろう。 そう思ったのに、何故か最後まで言えなかった。もやっと、心に雲がかかった。何でだろ。 あぁそっか、恋人ってやつをそんな便利道具みたいに思ったからかな。スキンシップしたいから恋人作るなんて、目的の為に利用するみたいでその人に失礼だしなぁ。大体そういうのは、好きな人同士でするもんであって…。 「もしもーし?澤くん?」 目の前でひらひらと手が振られているのに気付き、俺はハッと我に返った。俺の顔を覗き込んできた宝石は、今日も陽の光を受けてきらきらと眩しいくらいに輝いている。その宝石がパチンと弾けて、欠片が心に突き刺さった。だからかもしれない。 「あ、と」 「さっさと、こ?」 にやにやと顔を近付けてくる変態。俺が変なことを口走ってしまったのは、きっとこいつのせいだ。 「さっさと来いっ!一秒だけだかんな!」 「やった!」 言うや否や、ぎゅううっと身体を包み込まれる。何だってこんなことしなきゃならないんだ…。そう思いながらも、俺の手は勝手に変態の背中を抱き締め返していた。 それに気付いた藤倉の腕にも少しだけ強く力が込められる。 もちろん抱擁は、一秒じゃ済まなかった。
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