果てしなき旅

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   ラナの切なる願いに対するメルシェラートの返答は、驚くほど単純だった。 「…希望を捨てなかったからです」  ひどく抽象的な答えに、翔大とラナは思わず呆気に取られた。 「そ…そんな事…」  うわごとのように言うラナ。メルシェラートは頷いて続ける。 「先行探査機がカテゴリー2の文明へ向かうにしたがって、受信する電波の年月も進んで行きます。そして滅亡したカテゴリー2の文明からの電波は、どれもが終焉に近づくにつれ、世界が絶望に沈み、全てを諦めた様子を伝えて来ます―――」  メルシェラートはそこで一拍置いて、さらに続けた。 「希望…それは好奇心と言ってもいいでしょう。明日には何かがある、その先には何かが待っている…それを知たい、未知なるものに触れたいという思いこそが、前に進む力になる―――ヒーラシェルムも、よくそう言っていました」  それを聞いてラナは、納得出来ない表情で唇を噛んだ。 「それは…私達も理解している事です。ですが!…それを分かっていても、私達の世界はもはや、救いようがない有様となっています。貴女の言われた、絶望が全てを覆う世界へと向かっているのです! ですから…」  さらに窮状を訴えかけたラナだったが、思い直して口をつぐむ。メルシェラートと探査船『シャフマルーサ』は、たまたま地球に立ち寄っただけで、世界を衰退から救ってくれる救世主などではない事を思い知ったからだ。  すると今度はメルシェラートの方から、ラナに問い掛けて来る。 「本当にそうでしょうか?」 「え?」  なんの事を訊かれているのか分からず、ラナは首を傾げた。メルシェラートは詩を口ずさむように言葉を紡いだ。 「この船に好奇心を抱き、ここまでやって来たあなた方…あなた方をここまで送り出すために尽力された方々…そして、あなた方の成し得た結果を待つ人々…」  そこでメルシェラートは、柔らかな笑みを見せて告げる。 「まだ多くの人が、その先への希望を持っているではありませんか」 「!………」  メルシェラートの言葉に、ラナはピクリと肩を震わせた。それが消えかけたラナの希望の灯を、再び大きくさせたのかは翔大には分からない。ただ翔大は自分の思いをラナに説いた。 「そうだ、ラナ。まだ遅くはない。メルシェラートとのこの出逢いを、ありのままに伝えれば…彼女達のような存在が宇宙にいる事を伝えれば、多くの人に明日への希望を与えられるはずだ」  それがジャーナリストである自分の使命だと、翔大は思った。幸いな事にOSSSDOは、情報の透明性こそがその存在の生命線である。どこか一国の宇宙機構が今回のファーストコンタクトを行っていたなら、その中身が秘匿される恐れもあったが、常に情報が共有されていては、そういうわけにはいかない。  
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