一人目 Sometimes sound

16/19

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 それから私が笑い飽きるまで、黙って佇むだけだった。どう思われているのだろう、と日々気にしているから、若干の恐怖は覚えたけれど。  ちょっと軽くなったなあ。  脆くて、安い、心を滾る何か。沸騰していた内面が、泡を立てて沈んでいくのが明確に分かる。そうだ、勝ったんだ。私は、私に。  私が目を背けているのは、目の前のこの人であって、この人ではない。  段々、本当の私に近づいてきている。  二度と喋りたくもなかった内心を明かすのは、結局誤解を受けるのは、それこそ消去したいモノの一つではないか。  ――微かに雨の音が聞こえた。  それくらい、静まりかえってしまった時だった。  この人は命を吹き込まれた人形のように、けったいな言葉を並べた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加