一人目 Sometimes sound

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一人目 Sometimes sound

 ぼたぼた。  かろうじて鼓膜に届く、音。  ぼた、ぼたぼた。  音楽以外受け付けない耳に、入る音。  私は昔から、雨の日が好きだった。  独特の匂いと漂う冷気。退屈な部屋から出る時の心の揺れ。  街のビルや地面の色と、同化した空は見上げずとも分かるから心地よい。というか、雨が激しい日は、見上げることもままならないけれど。  お気に入りの傘をさすのは、お気に入りの長靴を履くのは。あの頃に戻れたような気がして、痛いのに楽しいんだ。  でも、嫌いじゃないけど、傘に当たる雨の音は、どうしてだろうか、不快に思う。  地面や建物に当たる雨は、激しい方が好きなのに。  自分に近い物から響く音は、怖い。  雨のお陰で、余計な声が聞こえず、雑念が勝手に生まれなくて好きなのだけれど。  あまりに大きい音は、嫌悪感しか生まない。    だって、壊すほどの盛大な音の中ですら、身勝手な思考回路が止まることは無い。  から。
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