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舌に触れて、うっとりする香りが鼻から抜けた。早く、早くと急かす私のお腹は、それすら無意味にするほど口を動かした。
――パキッ。
噛んだ時に、微かに、確かに鳴った音。細かく味わうほど、濁りながら幸せが溶けていく。
なんて心地が良い響き。
これよ、これこそ、ちゃんと自分が思い出される音だわ。
味覚が消えて泡になってしまったように、一時の癒しの甘さが淡泊に感じる。私は、ドロドロになったチョコを飲み込んで、貴方に微笑みかけた。
『堪らないわね、この感覚』
貴方は安心を隠さずに、その目を細める。
だってもう、雨とは違う、自然から伝わる音楽じゃない。
『貴方と話した……うんん、私と話したお陰で、この快感を思い出せたわ』
音って、悲痛で、優越で、美麗で、幸せで……。
きっと例えなんてないわ。
全身を駆け巡る快楽でもあり、苦痛でもある。音が嫌で嫌で仕方がなくても、離せないのはそれのせい。
色欲に愛があるように、愛に狂気があるように。
「嬉しいです。考え直して頂いて。聴覚って、その、要りますよね」
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