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だから、そのまま、全体重をかけて扉のドアノブに触れる。
雨に濡れた灰色の空間に長らくいたからか、手に伝わってくる情の無い冷たさも気にならない――わからなかった。
ゆっくり、音も鳴らない速度でそれを回す。
勿論、体ごとドアノブに預けていたため瞬間的によろつくのは当たり前だ。
その勢い余って、扉を開ける、という形になってしまい、脳が混乱だけを抱えた。
「どうもこんにちは、お好きな場所に座って下さいね。ベッドが良ければ奥の方へ」
何処か期待していた扉の先。
当たり前のように人がいて、当たり前のように灯りが点いている。
闇の世界から無理矢理引き摺り出されたような気分だ。
「ああ、突然困りますよね。貴女には少しでもノンストレスの状態でいて頂きたいのですよ。さあさあ、お座り下さい」
促されるまま、私は近くにあったソファに座る。
予想外のことに、殺伐とした空間では無かった。灯りは橙色で、物語の中のようにフリルやリボンが沢山ある。
一言で言えば、可愛らしい。
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