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3.
マドリードで新幹線に乗り継ぎ、セビリアに着いたときには、あたりは既に薄暗かった。
ネット予約してあったホテルにチェックインし、荷物を下ろしてホッと一息つく。部屋の窓から、懐かしいヒラルダの塔が小さく見えた。
25年経っても、セビリアの街の印象はほとんど変わっていない。
暑い日中を避けて、夕方から活気づく街。荘厳な大聖堂や宮殿を町の中心に抱える歴史ある街ながら、街の人々は皆ほどよく酔っ払い、声を上げて笑いながらお気に入りのバルで1日を締めくくる。
「懐かしいなぁ」
観光地の中心部にあるホテルは値段の割にこぢんまりしていて、昼間の熱気をそのまま閉じ込めたような客室は、むっとするような暑さだった。
換気するのと、旧式のエアコンが部屋を冷やすのではどちらが早いだろう。
観音開きの窓を開けると、眼下の路地には小さなバルが並び、路上にせり出したテラスのパラソルの下からは、酒を煽るアンダルシアの人たちの陽気な笑い声が聞こえてきた。
夫はマドリード空港に到着したあたりから、口数が少なくなっていた。久しぶりの新幹線に興奮したのも、車窓を流れる景色に感嘆の声をあげたのも私だけだ。
「心配しなくても、今のあなたの姿なら誰にも見つからないわよ」
そう言っても、夫の緊張はほぐれないようだった。
マドリードに駐在した2年間で、セビリアには3度旅行に来た。
最終的には店舗の全員を解雇する仕事をしていた夫は、マドリードにいる間は常に気を張って生活しなければならなかった。
スペイン人の多くは、よく言えば情熱的で、反面感情的で幼いところがある。街中で楽しそうに家族団欒しているところなど見られたら、逆恨みした従業員に危害を加えられることも十分考えられたからだ。
同じスペイン国内とはいえ、東京ー大阪間ほど離れているセビリアに旅行に来ている間は、日頃の緊張から解放され、夫もリラックスしているように見えたものだ。
25年ぶりに訪れたお気に入りの街は、夫の心を少しでも安らかにしてくれるだろうか。
「川の方に行くのは、明日にしましょう。とりあえず今日は、下のバルで生ハムでもつまみながらサングリアを飲みたいわね」
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