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退屈な一日が始まった。学校に行くのは一週間ぶり。
といっても、俺の心が一週間で立ち直ったかと言われると、決してそうではない。俺のぽっかりと開けられた穴は、きっと塞がれることはないだろう。
朝の用意。味の感じない朝ご飯を食べ、鏡に映るぼんやりした自分を見ながら歯磨きをし、顔に一度だけ水をかけて、適当に髪の毛をとかして、制服に着替える。
母さんが俺の休み期間にクリーニングに出していたからか、制服は真新しいような黒色に生まれ変わっていた。カバンも靴も、妙に綺麗な黒色。しかし、それさえ今の俺には心に響かない。
なにをもってしても、あいつの黒い瞳の綺麗さにはかなわないのだ。
高校までは、家から近いので歩いていく。自転車に乗った制服が同じやつらは、友達と一緒に楽しそうな話し声で通り過ぎてゆく。下を向いて一人とろとろと歩いているのは、俺くらいだ。
学校に着くと「おはよ」と友達からのあいさつ。「ああ、おはよ」短いあいさつを返すのみ。「……大丈夫か?」「ああ」そっけない返事。こうやって、いつもと同じように接するよう、友達は努力しているみたいだった。言えばいいのに、俺に聞けばいいのに。俺に何があったのか。だれもが当たり障りのないことしか話しかけてこないのだろう。
先生が教室にやってきて、一番に俺のことを見た。あっ、今日は来ているじゃないか、一週間ずる休みして。そう目が言っている。確かに仮病をつかって休んだようなものだから、冷たい視線に感じるというのは俺の考えすぎではないだろう。
友達は、それともクラスメイト中は、知っているのだろう。決してだれにも言っていないのに。ただ一週間前、LINEの一言欄にこうつぶやいただけなのに。
『俺の彼女が、死んだ』
学校をほとんど無気力で過ごし、友達と喋る気もなく、部活に行く気もなく、ふらふらと学校の昇降口を出る。つまずかないように地面を見て歩く。門を抜け、いつもの帰り道をトボトボと行く。
前を向く気も上を向いて歩く気もないのだった。とてもそんな気分にはなれなかった。
「翔太」
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