3時の鐘が鳴る

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3時の鐘が鳴る

 氷のように冷えた床に転がって考える。  この人生はどこで地獄へと舵を切ってしまったのか。いつから私は『魔女』へと転生してしまったのか。どうして毎日のように罵声を浴び、拷問を受けているのか。  いくら考えようとも、神様は私に答えを授けてはくれない。おそらく、これから死ぬ私になど、神様は微塵も興味ないのだろう。  どこか遠くから、澄んだ鐘の音がこだましてくる。長く響くそれは、午後三時の合図。  ――魔女の私たちにとっての、死の宣告だ。  微かに差し込む光を遮る誰かが現れる。あぁ、始まるんだと私はへらりと死んだ笑みを零した。傷だらけの顔を上げれば、錆びた音を立てて檻が開かれる。そこに立っている処刑人は、今から一銭の価値もない私の命を奪いに来るのだ。  しかし、檻の中に入ってきたのは処刑人などではなかった。金糸のようなサラサラの髪に、豪華な装飾の付いた衣装。宝石のような翡翠色の目が、薄汚れた私を温かく見つめている。  随分と身分が高そうなその男は、やんわりと微笑むとしゃがみこんで私に手を差し出した。 「行こう、君は今日から自由だ」  死刑宣告の三時の鐘が鳴る中、彼に手を引かれて地獄を飛び出した。
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