運命ならば

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「お客さんご案内します」 ボーイが部屋のドアをノックしてから開ける。同時に伝票も受け取った。60分フリーと書いてある。由香は100円ショップで買ったタイマーのボタンを押した。60分経ったら鳴るようにセットされている。そうしてお客さんの顔をよく見た。薄暗いので近づいてみないとハッキリとした顔は確認出来ない。由香はバッグを預かるついでにお客さんの顔を覗き込んだ。 20代後半位だろうか。整った顔立ちに引き締まった身体。知性を感じさせる眼鏡をかけた顔、知らない顔だ。初めてのお客さんである。 「初めまして、この店初めて?」 「うん。パチンコで勝ったからね。来てみたんだ。この店の前はよく通るんだよ」 そう言ったお客さんの手をふと見るとガクガクと震えている。緊張しているようだ。緊張を解いてあげなければ仕事にならない。 「いらっしゃい。私、由香って言うの。お客さんは?」 「僕は亮大だよ」 「じゃあ、亮大さんって呼んでもいい?」 この仕事をしていて、気がついた事はお客さんは皆、疑似恋愛をしにきているという事だ。大抵の人は一時の恋人が欲しいのである。亮大さんの恋人になってあげよう。 由香は震えている手を握って、自分の胸に置いた。 「ホラ、私、亮大さんにあって嬉しくてドキドキしてる」 こうする事で自然と胸を触らす事も出来るし、緊張を和らげてあげる事も出来る。 「ここ、フリードリンクなんだ。好きなだけ飲み物、飲んでもいいよ。ビールもあるし、何にする?」 「じゃあ、コーラあるかな?喉が渇いちゃた」 「外、暑いもんね」 由香はそう言って、電話機から「コーラ2つ」と言って頼んだ。 初めて会ったお客さんにも敬語は使わない方がいい。これもテクニックの一つなのである。 コーラを待っている間、由香は何気ない会話をする。 「パチンコどれぐらい買ったの?ああ、内緒だったら言わなくてもいいよ」 「えっ、別に内緒じゃないよ、6万位買ったんだ」 「えー。凄い。私パチンコってしたこと殆どないんだ。行ってみたいな。女のお客さんも多いでしょ」 「うん。結構いるよ。良かったら今度連れってってあげるよ」 「嬉しい」 そう言って、由香は軽く抱きつく。
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