運命ならば

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金曜日はやたらと忙しい。だが忙しい日は遅い時間になってくると酔っ払いが多いので逆に楽な時もある。泥酔してベッドで眠ってしまうお客さんが多いのだ。今日も3人目のお客さんは泥酔していて、来るなり熱烈なキスをしたかと思うと眠そうに伸びをしてからそのまま寝てしまった。60歳はいってそうに思われる常連の横塚さんだ。 「横塚さん、今日も酔ってるの?」 「そうだよ。酔っぱらうと由香ちゃんの顔が見たくなってね」 「それは嬉しいけれどいつも寝ちゃうじゃない。今日はシャワーくらい一緒に入ろうよ」 「シャワーなんかいいよ」 そう言って、横塚さんは座っている由香の膝の上に頭を置いて寝てしまった。 「もう」 由香はそう言うと寝ている横塚さんの頭を撫でた。髪が薄くなった丸い頭が可愛らしい。由香はそのままの体勢で数十分過ごした後、お店の中に流れている音楽に耳を傾けた。箱ヘルスの中は、中に居る人達の声をかき消すようにガンガンと大音量で音楽が流れている。最近の流行りの歌が流れているので、覚えてしまう程だ。 あっ、この歌好き。 由香は音楽に合わせて歌を口ずさんだ。メロディーに合わせて横塚さんの背中をトントンと叩く。 「あれっ、また寝ちゃった。今何時?」 思いの他強く叩いたのか横塚さんが起きてしまった。欠伸をした後、目を擦る。
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