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駄目じゃない。
風俗店の女の子に本気で優しくしちゃ。
それはこの世界では一番の犯罪だよ。
亮大さんの解るように一所懸命説明した。
「よく解らないけど、僕、由香ちゃんの事好きだ」
ああ。
由香は亮大さんの胸を軽く叩くと、
「ズルいなぁ。反則だ」
と言って泣いた。
このまま気持ちに甘えてしまいたいが、自分は汚れているという思いもあるし、親の借金もある。
「そーいうお客さんはね、出入り禁止だよ」
由香は電話機を手に持つと
「お客さん、お帰りです」
とボーイに告げた。
そうして亮大さんを見送った後、店が終わる時間になった。帰りは何時もこの店の店長に車で送って貰う。女の子の殆どが乗り込むので帰りは店から近い子が順番に車から降ろされる。由香は一番遠いので帰りは自然と遅くなる。店の女の子と喋る事は殆どない。「疲れたね」だとか「今日は忙しかったね」とか当たり障りのない会話をするだけだ。
女の子が全員車から降りた後、店長と車の中で二人きりになる。
「由香ちゃん、今日は疲れただろう。よく頑張っているね」
「だってお母さんの借金があるんだもの」
「そうだったね。酷いお母さんだな」
少しの沈黙が続く。
「そういえば、今日最初に来た、若い眼鏡の男の子いたでしょう。あの後直ぐに引き返してきたけど、由香ちゃん指名で3時間延長で掛かっただろう。ずっと待合室で待っていたんだよ」
そうだったんだ。
由香は窓の外を見た。後数時間すれば日が昇ってまた新しい朝がやってくる。そうして辛くて悲しい一日が始まる。由香は目を瞑った。あんな帰し方をしたんだから亮大さんは二度と来ないに違いない。固く目を瞑って涙が出そうになるのを堪える。
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