約束

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 私は小学校に上がる前、しばらく祖父母の家で暮らしていた。父は私が幼い頃に亡くなり、母と二人で暮らしていたのだが、その母が入院することになったのだ。 「母さんね、しばらく入院しないといけないの。だから爺ちゃん家でいい子にしてるのよ」  母は私にそう言った。 「ニュウイン?」  まだ幼い私はそれがどういうことかわからずにいた。そしてわからぬまま祖父に手をひかれ、山間(やまあい)にある祖父母宅へと連れられていった。  母は乳がんだったと後から知った。祖母は母につきっきりで私はほとんどの時間を祖父と過ごした。都会っ子だった私は、最初山での暮らしに馴染めなかった。でもそこは子供のこと、じき慣れて庭にある木に登り祖父をハラハラさせたり河原でキレイな石を集めたりして山での生活を楽しんだ。唯一残念だったのは同じ年頃の子がいなかったことだ。  ある日、祖父と一緒にバスに乗り町まで買い出しに出かけた。足の悪い祖父は杖をついて難儀そうに歩いている。その帰り道、祖父の携帯が鳴った。 「あぁ、うん、うん、そうか、よかったのぉ。うん、伝えておく」  そんなことを言って祖父は電話を切った。電話は母の病院に行っている祖母からだったらしい。 「お母さん、手術成功したぞ」 「本当?じゃあもうお家に帰れるの?」  私がそう言うと、祖父は笑った。 「まだしばらくは入院が必要じゃろ。もうしばらく爺ちゃん家で我慢しておくれ」  私はコクリと頷いた。母が無事戻ってきてくれるのがわかっただけで飛び上がるほど嬉しかった。何だかんだ言っても心細かったのだ。 「おお、ちょうどええ。神社に寄ってから帰るとしよう」  バス亭からの帰り道、古い神社がある。真っ赤な鳥居がバスからも見えていた。 「えー、遅くなっちゃうよ?明日にしようよ」  そろそろ夕暮れ時である。お腹が減っていた私は祖父に駄々をこねた。だがこの時ばかりは祖父も私の言うことをきこうとはしなかった。 「いんや、ダメじゃダメじゃ。手術がうまくいったらすぐにお礼に行きます、と神様と約束したからの」 「約束?」 「そうじゃ、約束じゃ。神様との約束は決して破ってはならんのじゃ」  祖父はそう言うと私の手を引いて神社へと向かった。夕日が神社の鳥居を更に赤く染め上げている。 (あれ……?)  鳥居の上に動くものがあった。 (何か……いる?)  祖父にそう言うと、鳥でもいたのじゃろ、と素っ気ない返事をされた。私と祖父は神社でお礼の報告をすると帰路についた。
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