第壱話 和傘de逢引

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第壱話 和傘de逢引

 どんよりした灰色の空より、しとしとと雨が降る。アスファルトに跳ね返る雨粒は、辺りを白濁の霧が立ち込めたように演出する。道路を挟んで両側に立ち並ぶ民家に咲き誇る紫陽花が見事だ。鮮やかな翠の葉、薄青、薄紫、桃色、紫、藍色、薄紅の色合いの違いもまた目の保養だ。雨の雫は水晶。時折花や葉に絡みつく糸遊に連なる滴は、さながら水晶の腕輪や首飾りのようだ。  令和は上を見上げた。藍色の傘を通して見上げる空は有明を思わせる。ほんのりと灯りが差したようにも見えるのだ。その青は天空から漏れる僅かな光を吸収し、あまり日に当たらない為色白の令和の肌を、透き通るように神秘的に演出する。そして傘の親骨をはじめ入り組んで複雑かつ繊細な小骨、手元ろくろの部分が織りなす陰影が彼の顔立ちを彫の深く、上品に際立たせる。涼やかな目元は、塗れたように艶のある漆黒に。睫毛は長く、憂いを含んだとばりに。引き結ばれた唇は男らしく怜悧に。今時珍しい程に短く刈った髪は、ふさふさとした漆黒の繻子のようだ。  和傘はそんな風に持ち主を数段ほど上質に演出するのだ。薄青のデニムパンツに白の長袖Tシャツ、黒のスニーカーまでもが、和風がかって見えたりもする。  まとわりつくような湿気、鬱陶しい長雨も和傘を通して見るとなんだか粋だ。特に、少し歩いた先の公園で、緋色の和傘を差して待つ許嫁の灯里あかりの姿を目にした際、 「和傘はな、持ち主を雨や紫外線から守るだけじゃなくその人本来の魅力に華と奥行きを与えるもんなんじゃよ」  という先代の口癖の一つが、実感できる瞬間だ。  立花令和たちばなれいわは代々続く和傘職人の家系の長男として生まれた。先代は父方の祖父、令之信れいのしん。そして十代目は令和の父、和也かずなりである。令和は大学を卒業し、何年か修行した後に十一代目を引き継ぐ予定だった。これまでも、物心つく時より和傘作りに触れてはいたが、まだまだその全ての過程を任される程の腕前にはなっていない。大学を卒業した後、本格的な和傘作りの修行に本腰を入れるのだ。
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