act.32

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<side-CHIHARU>  シノさんの携帯に電話をすると、しばらくコール音が続いた。  当然だよね、今、仕事中だもの。  パーソナルな電話なんか、出られないよね・・・。  僕はそう思い返して電話を切ろうとした瞬間、電話が繋がった。 『千春?』  シノさんの声が聞こえてきて、僕は慌てて電話を耳に押し付けた。 『どうした?』  シノさんの声は、妙にエコーがかかっていた。  多分、階段の踊り場とかそういうところで話している感じだった。 「ああ、ごめんね、シノさん。仕事中なのに・・・」  僕は酷く罪悪感を感じて、そう言った。  いろんなことに鈍感なシノさんだけど、彼は僕の動揺している様に関してはとても敏感で、僕のその声を聞いただけで『何かあったのか?』と訊いてきた。 「うん・・・。今、シノさんの家の前まで来てるんだけど、何かの雑誌の記者が張り込みしてて・・・。あの身なりなら、多分写真週刊誌じゃない。きっと女性週刊誌の方だと思う。ある意味、こっちの方がタチが悪いかもしれない。晩ご飯作って待ってようかと思ったけど、ごめん・・・。僕、もうシノさん家に入れないよ」  僕がそう言うと、シノさんはすぐにこう言った。 『コソコソする必要はない。堂々としてりゃいい』 「え?」  僕はシノさんの言ったことに驚いて、思わず訊き返した。 『だって俺達、悪いことしてるわけじゃないだろ?』  そう言われて、僕は思わず涙が出そうになった。   ── そう。そうだよね、シノさん。僕ら、悪いこと、してないよね。 『俺の家で俺の帰り、待っていて。いつもみたいに』 「シノさん・・・」 『大丈夫。なんとかなる』  力強いシノさんの声。  僕は思わず、フフッと泣き笑いの顔で笑ってしまった。  ホント、かっこいいよ、シノさん。  シノさんが大丈夫って言ったら、例え不可能なことでも大丈夫に思えてくる。  僕はハッと息を吐き出すと、「うん。ちょっと頑張ってみる」と返し、電話を切った。 <side-SHINO>  電話を終え、日本酒課のフロアに戻ると、田中さんが心配そうに俺を見つめてきた。  課長や他の社員は皆営業に出ていたので、課内は田中さんと俺だけになっていた。 「電話、成澤さんからでしょ? 何かあったんですか?」 「うん・・・。俺の家の前に週刊誌の記者らしき人がいるから、どうしようって電話だった」  俺がそう言うと、田中さんは激しく顔を顰めた。 「雑誌社って互いに情報交換でもしてるんですか? 一般人の自宅前で張り込みしてるってそれ・・・。篠田さん、帰り、大丈夫ですか?」  俺は肩を竦めた。 「うん、まぁ大丈夫だよ。俺は俺の家に帰るしかないんだし。千春にも、堂々としてればいいって言った」  田中さんは、少し呆れたって表情を浮かべた後、クスクスと笑い出した。 「ホントに篠田さんって・・・。大物なんだか・・・」 「ただのバカだって?」  俺が田中さんの言葉の先を繋げると、田中さんは「そんなこと言ってませんよ」と口を尖らせた。  二人で笑いあって、仕事に戻る。  千春は凄く不安げな声で電話してきたけど、俺は内心、嬉しかった。  あのいつも超然としていて、年下なのに頼りがいのある千春が、俺を頼ってくれていることが嬉しくて。  不謹慎かもしれないけど、不安げな千春が凄く愛おしかった。  千春、「頑張る」って言ってたけど、無理してないかな。  結局、俺がけしかけちゃったみたいになってしまったし。  でも、今晩家に帰ると千春が待っていてくれてるって思うだけで、凄く幸せな気分になる。  俺が思わずフフフって笑うと、田中さんに「やだ、ニヤけてる、この人」と突っ込まれてしまったのだった。 <side-CHIHARU>  僕は、意を決してシノさんのマンションまで歩き出した。  内心、気づいてくれなければいいのに・・・とか、勘違いであってほしいとか思ったけど、やはり記者風の男はカメラを構えながら近づいてきた。 「澤先生ですよね?! 作家の澤清順先生ですよね?!」  僕はその声に答えず、マンションの入口を目指した。  男は、後ろから小走りで僕についてきながら「交際は順調ですか?!」とワイドショーでよく聞くコメントを言ってきたので、僕は内心笑ってしまった。  本当に言うんだ、そんなこと。  随分昔に僕もゴシップネタは書かれてきたし、その頃はこういう記者にも追いかけられたけど、昔の僕は完全に素行不良の得体の知れない遊び人ゲイだったから、こんな気安い感じで声をかけられることもなく、写真だけバシバシ撮られて、いろんな暴れっぷりを脚色たっぷりで記事に書かれたものだが、今は”声をかけづらい”オーラはなくなってしまったらしい。僕もすっかり丸くなったということか。 「もう一緒に住まれてるってことで、よろしいですか?」  無言を貫く僕に、矢継ぎ早に同じ台詞を何度も何度も繰り返しかけられて、シャッター音も続けざまに聞こえてきた。  幸い周囲にはそんなに通行人はいなくて、どこかのおばあさんが不思議そうに僕達を眺めているだけだった。 「先生! こちらはお付き合いされている方のマンションですよね?! もう同棲されてるってことでいいですか?!」  僕は、マンションの敷地内に足を踏み入れた瞬間にピタリと足を止め、振り返った。  突然のことに記者は驚いたのか、僕のすぐそばで立ち止まった。  記者は、まだ青臭い感じの残る若い男だった。  なんでこんな記者が、ゲイのスキャンダルを追っかけてるんだろう。  僕は更に彼に近づくと、僕より幾分視線が低い記者の顔を見つめ、小首を傾げつつ話しかけた。 「晩ご飯の献立、ブリ大根ってどう思います?」 「え? は?」  記者は、いきなりそんなことを訊かれたものだから、思いきり戸惑った表情を浮かべた。 「肉じゃがもいいかなぁって思ったりもするんですよね」  僕がそう続けると、記者は急に毒牙を抜かれたように「は、はぁ・・・」と相づちを打つ。 「どちらがお好みですか?」  僕が少し甘めの声でそう訊くと、記者は目をきょときょととさせながら、「に、肉じゃが・・・ですかね・・・」と答える。  ── ふん、肉じゃがかよ。あいにく、今日はブリ大根って、決めてるんだよ。  僕はそう思いつつ、人差し指で記者の顎のラインをすぅ~と辿ると、「ふぅん・・・、肉じゃがねぇ」と囁いた。  記者がブルリと身体を震わせた。  顔が真っ赤になってる。  僕はふいっと身体を離すと、今度は淡白な声で「食べます? 肉じゃが」と訊いた。  記者は、「いいえ! 滅相もない!!」と物凄い勢いで首を横に振る。 「そうですかぁ。いいんですよぉ、別に遠慮しなくても」  と僕が答えると、記者は「いや、ホントに。お気遣いなく」と言いながら、ハンカチで額の汗を拭いた。 「ところで・・・・。ええと、どこの雑誌社さんですかね?」 「は? ああ、光章社です」 「光章社さん・・・。ちなみに、あなたのお名前は・・・」 「あ、先崎です」 「先崎さんね・・・。で、あなた、立派に不法侵入ですよ」 「え?! あっ!!」  僕のその台詞に、記者は自分の足下を見る。  彼はギリギリ、マンションの敷地内に足を踏み入れていた。  記者は、まさしく飛びのくといった表現がぴったりの動作で、後ろに下がった。  僕は、にっこりと笑顔を浮かべると、こう言った。 「僕のことを追いかけ回すのはいいですけど、相手は一般の方なので、こんな風につきまとうのはやめてください。彼は普通に仕事をしてる社会人ですし、あなた方が彼を追い回すことで彼の生活に支障が出るとしたら、僕は許しませんよ」   記者は紙のように白い顔色になった。  僕は笑顔のまま、小首を傾げて最後にこう言った。 「そうなったら、僕、先崎さんを訴えちゃおっかな」  完全に固まっている記者をそこに放置して、僕はそのままマンションのエントランスに入っていった。      「ただいま~」  今日の献立プラス余った材料で常備菜を作り終えた頃、シノさんが帰ってきた。 「おかえり」  僕はキッチンから玄関先を覗くと、シノさんは靴を脱いでいるところだった。 「シノさん、大丈夫だった?」  シノさんが顔を上げる。 「ん? なにが?」 「なにがって・・・。記者、いなかった? 外」  僕がそう訊くと、シノさんは「ん~」と唸りながら肩を竦め、「いたけど、なぜか近づいてこなかった」と答えた。   ── ふぅん、僕の脅しが、意外に効いたってことか。  相手が若い記者でラッキーだったな。多分、個人名出して訴えるって言ったことで、ビビッたのかも。まぁ、この効力がいつまで持つかわからないけど・・・。 「ん? 沈んでるのかなと思ったけど・・・。なんか、嬉しそうだね」  シノさんに顔を覗き込まれ、僕はゴホンと咳払いした。 「早くシャワー浴びてきてよ。ご飯の支度しておくから」  僕はシノさんを追い払うように手を振って、シノさんを今来た廊下に押し戻した。  あの柴犬みたいな黒い瞳でじっと見つめられると、いまだに照れる。  今更なにを言ってるんだって言われそうだけど、どうしても直視できない時がある。  30過ぎてるのにあんなに罪のない澄んだ瞳してるなんて、ホント、あり得ないっていうか、なんていうのか。  本人に自覚がないのがまた・・・。  罪がないってさっき思ったけど、前言撤回。あの人、罪深過ぎる。  本当に、僕と付き合い始めるまで誰とも付き合ってこなかったっていうのが、信じられないよ。  世の中の女子達は本当に目が節穴というか・・・というよりは、シノさんが気づかな過ぎなんだろうけど。  僕がシノさんの“最初の人”になれたっていうのは、本当に奇跡的だよね。  この世の中に神様なんていないって僕は思ってきたけれど、まるで僕に対しての何かのご褒美のようだと思える。  こんなに罪深い僕なのに、シノさんみたいなご褒美をくれるだなんて、神様、血迷ってるよ。  シャワーの音に混じって恒例の歌声が聞こえてくる。  今晩の一曲は、なぜかゆずの『栄光の架け橋』だった。  僕も、シノさんの影響でJ-POPを聴くようになったので、シノさんが歌う曲のタイトルはわかる。  以前はピアソラばかり聴いていたから、僕も随分様変わりしたものだ。  相変わらずサビが無限ループし始めたので、僕はお風呂場まで行ってドアをドンドンと叩いた。 「いつまでも歌ってないで早く出てきてください! ご飯が冷める!」  するとピタリと歌声がやまって、「は~い」と返事が返ってきた。  ふむ。素直でよろしい。  配膳が済んだところで、シノさんが風呂場から出てきた。 「お、美味そう。久しぶりの和食だ」  濡れた髪を拭きつつ、テーブルを覗き込む。 「ちょっと。髪の毛、ドライヤーで乾かしてこなかったんですか?」  僕がそう言うと、シノさんはきょとんとした顔をして「もう随分暖かくなってきたし、自然乾燥でいいかな、と」と言う。  僕は右手で眉間を擦った。 「それじゃ風邪もひくし、髪の毛も痛むでしょ」  僕はシノさんの襟首を掴むと、洗面所に逆戻りした。 「あっ、あ、あっ! ご、ご飯、冷めるよ・・・!」 「なら温め直しますよ」  僕はドライヤーを掴み、シノさんの背後に立つと、猛然とシノさんの髪を乾かした。 「イタッ、イタタタタ・・・・じ、自分で、する!」 「もう乾いた」  ああ、シノさん家のドライヤー、イオンターボつきの新しいのに買い替えといてよかった。  買い替える時シノさん結構渋ってたけど、「泊まりの時に僕も使うから」と説得して僕が買った。  シノさんは、僕がお金を一方的に出すことを凄く嫌がる。  まぁ、その気持ちわからないでもないけど、僕からすれば僕の財産は既にもうシノさんとの共通財産って思ってたりもするから、そこら辺もう少し緩くなってもらえたらいいのにって思う。  一緒に暮らすところを探すのだって、それなりにお金がかかることだし。  そこのところ、シノさんとちゃんと話さなきゃな・・・。  結局のところ、料理はそれほど冷めておらず、ご飯もまだよそってなかったから、それぞれの茶碗にご飯を盛った後、僕らはそのまま「いただきます」と食べ始めた。 「うん・・・・。うん、うん」  一口、大根を口に含んでシノさんは何度か頷くと、後は無言で猛然と食べ始めた。  よかった。口にあったようだ。  しかしそれにしても、相変わらずの豪快な食べ方(笑)。 「おかわり」 「はい」  何がおかしいかわからないけど、なんだかおかしくて笑えてくる。  僕は笑いを堪えながら、シノさんにおかわりのご飯が盛られた茶碗を手渡した。  シノさんはやっと僕の表情に気づき、「ん? なんか、おかしい?」と訊いてくる。  僕は「別に」と首を横に振った。 「いや、顔、笑ってるだろ?」 「笑ってませんよ」 「そんなことないだろ」 「笑ってませんって」 「いやいやいや。そんなことないよ。笑ってるって。なんか思い出したの?」 「え? まぁ・・・なんか、まるでサザエさんみたいだなって思って」  和食の献立に、いかにも「おい母さん、おかわり」「はいはい」っていう感じのリズム。  これまで結構このシチュエーションはあったけど、今更ながらにツボにハマってしまった。 「二人なのに、サザエさん???」  シノさんは頭の上に?マークをいっぱい飛ばしていたけど、仕方ないじゃないか。僕にはそう思えてしまったんだもの。  二人で顔を見合わせ、二人で同時にブッと吹き出した。 「ちょっと、シノさん、ご飯粒飛ばさなないで! 汚い!」 「だって・・・。ご、ごめん・・・。フフフフフ」  僕ら、家の外では大事になってるのに、こんなに穏やかな食卓を囲んでいていいのだろうか。  でもそんなこと言ったら、きっとシノさんは、「いいに決まってる」って言うよね。 『俺の家で俺の帰り、待っていて。いつもみたいに』。  電話でそう言ってもらえて、僕は本当に嬉しかった。  この人とこうして、本当の家族みたいにご飯が食べられてよかった。   ── あ、家族みたい・・・じゃなくて、もう、家族、か。  シノさんはひとしきり笑った後、また黙々とご飯を食べ始めた。  僕の方はそこそこ食べ終わって、お茶を飲む。  僕はシノさんと食卓を囲むようになって、もう以前のようにドカ食いをしなくなった。  今更ながらに考えると、あれってストレス食いだったんだなって思う。  そのせいか、僕は少し痩せた。 ── というか締まった。  お陰で、身体が軽い。 「あ、シノさん、これも食べる?」  今日追加で作った大根菜の炒め煮を差し出すと、「うん」と言って、また食べる。  お茶を飲みながらシノさんの食べてる姿を見てたら、なんだか今度はムラムラしてきた。  食欲を満たした後にくる性欲。  僕もつくづくごく普通の「男」と言うか、「雄」というか。  味噌汁を飲んで濡れ光るシノさんのぽってりとした下唇見てたら、どうにかこうにかしてやりたくなってくる。 「あ~、ごちそうさま! 美味かった」 「そ? もういいの?」 「うん。満足」 「お茶飲む?」 「うん」  僕がシノさんの急須にお茶を注ぎ足す間、シノさんは椅子の背もたれに身体を凭れさせ、プゥ~と両頬を膨らませながら大きく息を吐いた。  なに、このカワイイ生物。  僕がテーブルの上の食器をシンクに移動させているとシノさんも椅子から立とうとしたので、「ああ、シノさんはそこに座ってて。食器動かすだけだから」と僕は言った。 「え? 洗わないの?」 「うん、取り敢えず、水につけとくだけ」 「なんで?」 「うん。あ~、はいはい。そのまま、そのまま」  僕はオリーブオイルの瓶を手に取ると、なおも席を立とうとするシノさんを手で制してシノさんの椅子の向きを変え、その前に膝をついた。 「え? なに? なに?」 「あ~、はいはい。そのまま座ってて」  僕はそうシノさんに声をかけながら、シノさんのハーフパンツに手をかけた。  僕がシノさんのハーフパンツを下着ごと下にずらすと、「え?! おい!」とシノさんが焦った声を上げた。 「千春、なにする気?!」 「なにするって・・・。シノさんを食べるんですけど、これから」  僕はシノさんのまだ元気になってないペニスに手を添えて、シノさんを見上げた。  シノさんの顔は真っ赤だった。 「食べるって・・・。俺、明日も仕事だよ?」  仕事がある日はセックスしないってルールは、僕が作ったものだ。  だからシノさんはそれをひたすら我慢していたようだけど、ルールを作った僕がいきなりこんなことをしだしたから、ビックリしたんだろう。 「ええ。だからこうしてるんです。最後までしませんよ。触るだけ」  僕はそう言った後、シノさんのペニスを口に含んだ。 「触るっていうか、それ・・・」 「あ、すみません。舐めるの間違いでした」  僕が本格的にフェラチオし始めると、シノさんは「ううう」と唸って、椅子を掴んだ。  みるみるシノさんのアソコが大きく硬くなっていく。  いいね、シノさん。感じやすい。 「はっ・・・あっ・・・」  シノさんの口から、小さな声が漏れる。  シノさんが十分感じてきたところで僕はシノさんの片足を押し上げ、椅子の上に足を上げるように促した。  シノさんの股間が大胆に開かれ、奥まで見えるようになる。 「え・・・ちょっ・・・」  流石に恥ずかしくなったのか一瞬抗う素振りを見せたが、露になった内股に僕がキスをすると、シノさんの身体がビクッと跳ねて、僕の肩をギュッと掴むだけになった。 「あっ・・・んん・・・っ、千春・・・」  僕はシノさんの股間の隅々まで舌を這わせて、風呂上がりの石けんの香りを堪能した。  再びクプクプと音をさせながらシノさんを口に含むと、シノさんは目を細め「はぁ」と熱い吐息をついた。  僕の肩を掴む手の力が和らぎ、シノさんの全身から力が抜けて行く。 「あっ、あぁ・・・!」  シノさんが喉をのけぞらせ、喘ぐ。  そろそろいいかなぁと思って、僕は片手で床に置いていたオリーブオイルの蓋を開け手を濡らすと、その指でシノさんのアヌスに触れた。 「・・・・へ?・・・えぇ・・・?」  疑問の声を上げるその息はまだ熱いままだ。  シノさんが正気に戻る前に、僕は中指をシノさんのアヌスの中に入れた。 「ち、ちは、る・・・はっ・・・・」  抵抗する前に感じさせるのが定石だ。  この前学習したシノさんのいいトコをダイレクトに触る。  その瞬間、口に銜えていたペニスがじゅわっと濡れた。 「あっ、あぁ・・・!」  再び、シノさんの手がギュッ僕の肩を掴む。 「ちはる・・・ダメだって・・・ソコ・・・汚い・・・」  シノさんがうわ言のように呟く。 「ちゃんとお風呂で洗ったでしょ?」  オイルの助けを借りつつ、滑らかに指を出し入れすると、シノさんの身体が痺れるみたいに震えた。 「洗ったけど・・・・奥までは・・・・だから・・・」  シノさんが、ここにきて抵抗を見せる。  降ろそうとするシノさんの足をグッと掴み、僕はシノさんを見上げた。 「こんなこと言うとムードが覚めちゃうかもしれないけど。 ── 僕、将来シノさんのトイレの介護までする覚悟、すでにあるから」  僕がそう言うと、一瞬シノさんの目が正気に戻った。 「だから、全然汚くなんかない。シノさんの身体の中に、汚いとこなんてひとつもない」 「千春・・・・」  シノさんの表情が、じわりと歪んだ。  僕は唇を噛み締め、少し笑った。 「 ── 今シノさん、僕のこと抱きたいって思ったでしょ」  シノさんも唇を噛み締め、コクリと頷いた。  たまらなく切なくてエロいのに、少年のようにとても純粋な表情のようにも見える。 「やだな・・・。そんな顔されると、こっちも欲しくなってくる。 ── でも、取り敢えずシノさん、このままイッて?」  僕は、再び前と後ろ両方の愛撫を始めた。 「ハッ・・・アアッ!・・・あぁ・・ぅ・ん!」  シノさんの中が、温かくキュッと僕の指を締め付けてくる。  その指から甘い痺れが僕の身体の中に伝わって、恥ずかしい話、僕のそこもジンワリ濡れていた。  指でこんなに感じてしまうなんて、僕・・・。  ああ、シノさんにこんなにも入れたいのに、こんなにも入れてほしいと思う。  そしてそのままシノさんと混ざりあって、ひとつになってしまいたい。 「ア・ハッアッ・・・ッ! も・・・ぉ!!」  僕の肩を握る手に一際力が入る。  僕はシノさんの限界を、口と指で感じた。 「ウゥッ・・・!!!」 「 ── ん・・・・」  シノさんのを全て口で受け止めて、ゴクリと飲み込んだ。  シノさんがビクリビクリと身体を震わせる度に、断続的に喉の奥に熱いものが流れ込んでくる。  僕はそれに酔うようにうっとりとした心地で、柔らかく口の中でシノさんのペニスを扱いた。  アヌスに突き入れた指でもう一度シノさんのイイところを撫でると、「アァッ!」と一際大きな声を上げて、シノさんがブルリと身体を震わせた。 「はぁ・・・っ、はぁ・・・・」  僕はシノさんを口も指も両方から解放すると、ペロリと唇を舐めた。  シノさんは、ぐったりと椅子に凭れ掛かっている。  上気してぼんやりとした表情ながらも、シノさんは僕の顔を見ると両腕を僕の方に差し出してきた。  僕はそのままシノさんの膝の上に向かい合わせで腰掛けると、そのままシノさんに抱きついた。  シノさんが、抱き締め返してくれる。  首筋にキスをされたので顔を起こすとキスを求められて、唇を差し出した。  シノさんのを飲んだばかりだから、青臭いかも・・・と思ったけど、シノさんは躊躇いもなく僕の口の中に舌を差し込んできたので、僕は素直にそれに応じた。   ── ああ、こんなんじゃ、益々欲しくなってくる。 「千春・・・、一回だけ・・・」  欲しいのは、シノさんも同じだったみたい。  僕は身体を起こした。 「一回だけ?」 「うん。明日頑張って、絶対起きるから」 「絶対?」 「うん」  シノさんは、口を真一文字にして頷く。  しばらく見つめあって。 「 ── 僕、お風呂、行ってきます」  僕は立ち上がった。  その手を後ろから掴まれる。  振り返るとシノさんが僕を見上げて「一緒に・・・」と呟く。  僕は苦笑いした。 「シノさん、無理だよ。あの狭い風呂場に、僕とシノさんじゃ」 「シャワーだけ浴びるんだから、くっついて入れば大丈夫」 「えぇ・・・」  僕は、シノさんの台詞に思わず笑ってしまった。 「シノさん、さっきお風呂入ったでしょ?」 「うん。でも千春とは入ってないよ」 「はぁ・・・」  またまた笑ってしまう。  シノさんって時々、ホント、子どもっぽいことを言うんだ。  まぁ、それがカワイイんだけど。凄く。  結局、シノさんに押し切られて一緒にシャワーを浴びる羽目になってしまった。  シノさんは、後ろから僕の全身を手で洗ってくれた。  それは洗うというよりも当然、モロ愛撫で。  僕の全身はボディソープの泡に塗れつつもどんどん磨き上げられて、僕は沸き上がる声を抑えられなかった。 「あ・んっ・・・あぁ・・・シノさん・・・」  シチュエーションは温泉の時と似てたけど、今回は物凄く場所が狭い(笑)。  僕もシノさんも、あちこちにゴツゴツぶつかりながらだったけど、僕はとうとう我慢できず、「シノさん、お願い、ここで入れて!」とせがんでしまった。 「え?! ここで?」  僕はハァハァと喘ぎつつ、前を向いたまま大きく頷いた。 「だってもう、我慢できない・・・」 「でも、ここじゃあんまり動けないかも」 「シノさんが動かなくったって、入れてくれるだけで感じられるから、僕」  肩越しに振り返ってシノさんを熱い目で見つめる。 「シノさんは、僕の中に入るだけじゃ感じないの・・・?」  涙目で見つめたせいか、シノさんの目つきがガラリと変わって。  腰をグイッと抱き寄せられて、そのままシノさんが入ってくる。 「アッ・・・あぁっ・・・・!」  僕がさっき言ったことは、決して嘘じゃない。  シノさんを中で感じるだけで、僕の快感神経はMAXになる。  シノさんが奥まで入ってきて、僕のいいトコにドンッと当たる。 「ウァッ!・・・やっ、あぁ・・・!」  僕がギュッとアソコを締め付けると、シノさんが僕の耳元で「あッ、ん・・・」と甘い吐息をついた。  そのセクシーな声に、益々僕の身体の中が熱くなる。 「ちはる・・・・」  いつものように動けないせいか、今日のシノさんは前後の動きじゃなく、回すように突き立てられて、それに僕は感じてしまった。  ああ・・・、ホント、凄く、感じる・・・っ!  壁を掴もうとするけどタイルで手が滑って定まらず、結局僕は、右手をシノさんのお尻に手を回した。  手のひらから伝わってくる、逞しい腰使い。  激しくはないけど、その分深くて濃い・・・。 「アァ・・・、アァ・・・、シノさん・・・凄い・・・」 「ハァ・・・ハァ・・・・。感じる?」 「う、うん・・・ッ!」 「俺も、凄く・・・千春を感じてるよ」 「あぁ・・・、シノさん、僕の、扱いて・・・」  僕はシノさんの手を取って、僕のペニスを握らせた。  本当はお尻だけでイきたいと思ったけれど、そうするにはまだ時間がかかりそうだったし、そうなったらやっぱり明日起きられなくなると思ったからだ。  それにそんなに濃くしてしまうと、絶対に一回で終わらせたくなくなるから。  ここは、短期決戦で。  シノさんは腰を動かしながらも器用に僕のを扱いてくれる。 「ヤッ、アッ、あぁ・・・!! やぁだッ!! も、ダメ・・・・!! ダメ、イク・・・!!」  バタバタとタイルの壁やら浴槽に、僕の精液がはしたなく飛び散る。  そのまま僕は、腰の奥にシノさんのほとばしりを感じて、また再度イッたような感じになってしまった。 「ハッ・・・あ・・・あぁ・・・」  僕は右手を口に当て、ハァハァと大きく喘いだ。  そんな僕にシノさんは、項の際に熱く一回キスを落としたのだった。
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