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わたしは見ていたのだ。 ミズキがアマノくんの傘を盗むところを。 一度きりじゃない。 少なくとも数回は目撃している。
彼女はアマノくんを射止めたくておまじないに妄信した挙句、道理を外した行為に移ったのだ。 ミズキは彼の傘を事前に鞄から盗み、そのまま雨が降らなければ何食わぬ顔で鞄に戻していた。
そうして何度目かの正直で、アマノくんが傘を忘れたシチュエーションを作り上げ、自分は偶然にもおまじないを発動させられる女子高生を演じたのだ。
だからこそ、わたしは迂遠的に疑惑の種を植え付けておいた。 ミズキは他者より先行したいがために、姑息な真似を用いてあなたと付き合ったのだ、と。
わたしが二人の関係を崩す発言をしたのは、もちろんわたしもアマノくんが好きだから。
ミズキは目の前にいるわたしも彼を好きだとはつゆ知らず、惚気にも似た自慢話をしてくるのだ。 そのとき、どれだけわたしの心が切り裂かれていたか、ミズキは知らないだろう。
現状、ミズキはわたしよりも悪点がある。 つまるところ、アマノくんから見ればわたしは善良なのだ。 わたしはおまじないなんて神力に頼らない。 第三者に頼らずとも、わたしはわたしの力だけで、アマノくんを奪うのだ。 いつかアマノくんがミズキの悪事に気が付き離れてしまった場合、わたしは彼女の心に降りしきる雨に傘を差せるだろうか?
いや、きっと無理だろう。
表面上の同情だけで、心中では晴れたように笑っているかもしれない。
と、わたしはそれ以上の悪辣を並べることをやめた。 自分で自分に悪点を付与させるわけにはいかないから。
「さぁてと、どうなることかな」
わたしは鈍色の空を仰ぎ、差さないと決めた傘を広げた。 バッと鼓膜を震わす心地良い音は、何もかもを穿つ音だった。
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