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降り続いた雨は、ハルコが外に出る頃には多少なりとも弱まっていた。 彼女は掌を使って雨の降りようを確かめ、傘を差す必要性は無いと判断した。
ハルコは水溜りがいくつもできたアスファルトを闊歩し、たまたま見つけた彼──アマノに話をかけた。
アマノは右手の折りたたみ傘を閉じ、何か用? と首を傾げる。
「アマノくんに訊きたいことがあるの」
ハルコは人目を避けることができる且つ、雨のあまり当たらない場所にアマノを連れ、彼の了承を得る前に言葉を重ねた。
「あの日のことは覚えてる?」
「あの日?」
「そう。 ミズキ──あなたの彼女が、相合傘に誘った日のこと」
具体性を増してハルコが告げると、アマノは覚えているよと頷いた。 そしてハルコが訊くよりも先に、アマノは当時を振り返りながら続けた。
「うっかり傘を忘れて、偶然にもミズキと一緒に帰ったんだ。 確かそこからだったかな。 よく話すようになったのは」
懐かしみを含ませて話すアマノに、ハルコは気付かれぬよう唇を噛んだ。 が、そのとき胸裏に湧いた感情を殊更ストレートには伝えなかった。 代わりに質問を追加したのだ。
「折りたたみ傘、いつも持って来てるの?」
「ん、ああ。 もしものためにね」
「だったら、不自然に思わなかった?」
「不自然?」
「そうだよ。 突然、傘が鞄から無くなってるなんておかしいでしょ」
「うーん……ただ単に僕のうっかりだと思ってたんだけど。 その話が何かあったかな」
怪訝に首を傾げたアマノに、ハルコは何でもないと誤魔化し、最後にこんな台詞を残して彼と別れた。
「道を外したおまじないはきっと神様の怒りを買って、長続きはしないんだと思う」
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