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晴天から燦々と降る陽光は、万象に形を違えど活力を与え、基本として喜ばれる存在である。 一方黒い雨空とは、万象から際限なく活力を奪い、あまつさえ奪われた穴に憂苦を注ぎ込む場合がある。 特に月曜日ともなればそれは顕著に。
今日、世間は朝から止まぬ雨に見舞われていた。 いっそ豪雨なら割り切れただろうが、だらだらと尾を引くような雨では、鬱積は高さを増すばかりであった。
そんな鬱陶しい雨が教室の窓に縦線模様を刻むのを、ハルコは遠い目で見つめていた。
「それで言ったの。 もし良かったら付き合ってくれないかな、って!」
ハルコと机を一つ挟んで座るのは、彼女の友人であるミズキだ。 ミズキは二人以外が出払った放課後の教室で、ハルコに彼氏が出来た報告をしていた。 故にハルコが流れ落ちる雫を眺めるのは、益体ない自慢話を聞き流すためでもあった。
雨と同じように長い話がハルコの鼓膜を打っていると、興を削がれたミズキが語り部を変えようとした。
「ハルちゃんは試してみないの?」
「別に。 そこまで興味は無いから」
「えー、でも好きな人がいるんでしょ」
「……いる、けどさ。 だからと言って必ず成就するわけじゃないよ」
ハルコの、端から諦めの滲む素気無い態度に、ミズキは小さく唇を尖らせる。
「初めから諦めてたら何も起きないよ。 行動起こさなきゃ」
彼氏あるいは彼女が出来ると人は変わる。 ミズキの話を聞きながら、ハルコはそんな事ばかり反芻していた。
ハルコとミズキは小学校からの付き合いだった。 二人には共通する趣味が多く、故に心を開くまで時間を要しなかった。 違う人生の筈が、同じ轍を歩いているような人間関係だったのだ。
しかし恋愛において、ミズキはハルコの一歩先を歩いてしまった。 新たな轍が生まれれば、思考にも変化が来たされる。 ハルコはミズキの先行に最初ばかりは胸痛に苦しんだが、数日もすれば気にしなくなっていた。
「とにかく、ハルちゃんの恋愛も成就するように祈ってるからさ、騙されたと思ってやってみなよ」
最後にミズキは場にそぐわないからっとした笑顔を作り、放課後の話し合いはそのまま解散となった。
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