36.いよいよ

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   会社の前でジェイを庇って自分が刺されたことを今回の裁判でどうするか。今日は単なる報告と軽い打ち合わせだった。けれど応接室から出たジェイの足が止まった。 「あの……今の、俺の話……だよね?」  課長と顔を見合わせる。微かに課長が目を細めた。 (今は話さない ってこと……だよね? これじゃ……) 「今日は考えるのをやめよう。まず忘れていることを整理していこう」  思い出さない方が幸せだ。けれど思い出さなければ拷問が待っている。 「ご馳走さま」  真理恵がそばに座って額を触ってきた。 「なに?」 「こんなに残すなんて初めてだから熱あるのかなって」 「無いよ。ごめん、もう食べられない」 「夕べ話したジェイくんのことだね、裁判」 「うん……『性犯罪ではよく起こること』昨日ジェイの弁護士がそう言った。変わんない、俺の時と。だめなんだ、俺は自分のことを重ねすぎて冷静になれない」  このままでは間違ったことをしそうで怖かった。 「……仕方ないよ そう言ってあげたいけど。花くんはもう『今』を見ないと。それじゃジェイくんと共倒れになっちゃう。過去を忘れたりなかったことにしたらダメだと思う。それは自分に嘘をつくことになるし」  真理恵の顔を真剣に見た。今の自分に大事なことを言ってくれている、それが分かる。 「よく『あの痛みを踏み台にして』とか言うけどそれも違うと思うの。そんなことできるわけ無いよ。でも誰よりもジェイくんの近くにいることができるのは花くんが気持ちを共有してるからなんじゃないかな。大事なのはジェイくんの手を放さないことだと思う。あの時、私たちは一生懸命に花くんに手を伸ばしたけど花くんは拒んだよね。花くんには私たちの言葉は届かなかった。それは私たちが気持ちを共有してなかったからだと思う。今の花くんはジェイくんにとって大事な存在なんだよ」   
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