37.繋がっていくもの

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   夢の奏でる音が教えてくれる、過ぎたものだと。今の自分に過去は解け合っている。  花は感覚的に生きてきた。それはこの両親から受け継いだものだ。いつでも素直なありのままの自分を出して生きてきたのだ。 (ジェイ。お前に母さんのピアノを聞かせたい。いつかこの家にお前を連れてきたい)  両親はジェイを受け入れて包むだろう。  曲が終わっても花は余韻に浸っていた。 「父さんも母さんも……俺は好きだ、そのままで。好きだからいてほしかったんだ。そばにいてほしかった。でも今も変わらないでいてくれる二人が……好きだよ。父さん、さっき時間のことを言ったね。その通りだと思った。一緒にいた時間じゃない。トータルの時間なんてどうだっていい。今は父さんたちを見てて満たされる。それでいいと思う」  父が微笑む。 「枠は要らないんだ、花。いろんな枠は忘れていい。父さんも母さんも間違った。君に対してね。それでも君は美しく生きていてくれる。私たちには宝なんだ。きらきら輝く宝石なんだよ。忘れないでおくれ。何があったとしても君は美しい。魂が見えるよ、誰とも違う君だけのもの。人を見る時も魂を見るんだ。君にはそれが出来るよ、何もかも取り去った枠の無い魂を見て受け入れることが」  芸術家は生産性のない職業だと思っていた。違う。そこに生まれるものは計り知れないほど大きくて豊かだ。それは職業ではない。  この父と母は結果もたらされた名声にさえ執着していない。自分のためにあの時になにもかも捨ててくれた。 「もっと考えるよ、父さんの言ったこと。父さんと母さんに生まれて良かった」  夢はとっくに泣いていた。真理恵が2枚目のハンカチを渡している。  唐突に真理恵が立った。花は真っ青になって洗面所に駆け込む真理恵を追った。 「どうした!? マリエ、具合が悪いのか!?」  後ろに息を切らした父が立った。背中を擦る息子の姿に思い出すものがあった。 「真理恵ちゃん。新しい命がいるんだね?」  その意味が分かるのに時間がかかった。花は息をするのを忘れた。  
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