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花は父との会話を思い出す。
『父さん、同性愛 って……どう思う?』
『どう思うって……人と人が愛し合うのに何か問題があるかい?』
『それって、認めるってこと?』
『認めるとか認めないとか。そういう問題なのかな、花には』
『でも受け入れられないよ! 男同士だよ!?』
『誰か、いるんだね?』
花は答えられなかった。このことは真理恵にさえ言っていない。
ジェイとの間はギクシャクしていて、仕事上だけのやり取りが中心になっていた。部長は目を背けなかった。いつも通りに花にも仕事上の話をし、いつも通り真理恵と子どもたちのことを気遣ってくれた。
『花、覚えてるかい? 前に父さんが言ったこと』
よく言われたことだ。何度も何度も。
『囚われてはいけないよ。男とか女とか、そういうことに。人と人だ。大事なのはそこであって他は些末なことだよ』
「俺さ……まだ自分には難しいような気がしてる。でも、お前との繋がりを絶つ気なんかないんだ。あれからずっと考えてそれが分かった。お前は俺の初めての親友で、弟みたいなもんだよ。お前との間、そう簡単に捨てられるもんじゃない。部長とお前の……関係は他の人間が立ち入れるようなもんじゃない。そう思う」
手元を見ていた花が真っ直ぐジェイの目を見た。ジェイの体が竦んでいるのを感じる。
「俺が言うの、変だけど……堂々としてろよ。俺は今のお前の卑屈な目を見たくない。部長は頑張ってる、と思う。会社でも堂々としてる。お前が卑屈になるのは部長を裏切るのと同じじゃないのかな。時間、かかるかもしんないけど俺は……元のようになりたい。お前はやっぱり俺には大切なヤツなんだ」
ジェイの目からぽたぽたと涙が落ちていた。
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