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39.本当の敵
「花くん、難しい顔してるね」
「明日だからな、公判は。今になってまともな証言できるかってちょっと心配でさ……」
「え、花くん、上がってるの?」
「ばか! そういうのと違うんだ。後になってあいつの不利になるようなことを言いたくない。だから事件のことを書き出してる。ジェイにも約束したしな、俺も思い出したことを書くって」
「パソコン、使わないんだね」
「ジェイの真似。思い出すにはこの方がいい。あいつがそう言ったんだ。確かにパソコン叩くより頭が働くんだよ」
西崎弁護士の質問には用意がある。打ち合わせも充分した。問題は向こうの弁護士だ。有能だと聞いてはいるが、どこをどう突いてくるのか。それだけが気がかりだった。
5月18日月曜日、9時20分。裁判所の待合室で課長と野瀬に会った。
「野瀬、緊張してるな」
「だって何聞かれるか分かんないですからね」
課長に言われて野瀬は体を解そうと肩を上下させた。
「俺も緊張するつもりなかったんだけど。野瀬さんがブルッてるからこっちまで心配になる」
「お前、相変わらず失礼なヤツだな!」
そこに西崎がやってきた。いよいよだ。
花は西崎の質問に的確に答えて行った。駐車場で自分の見たもの。入院したジェイの混乱していた様子。病室にいてさえ相田という存在を怖がっていたこと。助けるのが遅かったとなじられたこと。
「被害者は事件を認識していましたか?」
「いいえ、分かっていませんでした。写真を見てこれは自分じゃないと繰り返していました」
花の声は冷たく尖っていた。
「以上です」
西崎の質問は終わった。
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