第5章 同居

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第5章 同居

 あれから何度も話し合って結局私は春人の決断に従った。 2045年6月、私たちは義父・康彦さんのいる実家の戸建てへと引っ越しをした。  私たち夫婦は康彦さんの書斎となっている1部屋をのぞいて2階の2部屋を自由に使って良いとのことだった。  引っ越しが終わると昼食には縁起物としてそばを食べた。  そして夜が来た。  リビングでささやかな夕食会を開いた。  「それにしても賑やかになるな、まさかお前たちが来てくれるなんて、父さん夢のようだよ」康彦さんは言った。  「式を挙げて入籍して資金が貯まったらここも売り払おう、オヤジ」春人は言った。  「設計、インテリアは父さんに任せなさい。いろんな伝手があるんだ、立派な2世帯にしてやるから」  「オヤジったら孫の誕生も考えてるんだ。いずれは3世帯になるなあ」春人は言った。  「春人、まだ気が早いって、まだ式も挙げていないのに」私は口をはさむ。  「はいはい。まずはしっかり働いて貯金貯金」春人が言った。  「父さんは花音ちゃんという娘ッ子が来てくれるだけで幸せだよ、孫は天からの授かりもの、そう焦るもんじゃないぞ春人、なあ花音ちゃん」いつもの康彦さんのダンディーな声に私はつい聞き惚れてしまう。  「あ、はい。まずは式を挙げるまでよろしくお願いします」私は言った。                * 不動産の事務のお仕事はきっかり6時で終わりだ。給料は低いが定時に帰れることは有難かった。  帰りの買い物には迷う。どちらかといえば肉好きの春人。魚好きの康彦さん。康彦さんもよほどのことがない限り7時には帰ってくる。春人は相変わらず忙しく10時を過ぎることが多い。となると夕食は私と康彦さんの2人だけの食事になる。  「今日もおいしい煮魚だねえ、花音ちゃんはホント料理がうまい」康彦さんは毎日私の料理を褒めてくれる。独特の渋いトーンの声で。  「田舎には祖母と母両方いたから、うるさく教えつけられたんです、でもよかった。こうやって作って褒めてくださるのはお義父さまだけですよ、春人はただガツガツ食べるだけでビール飲んで寝てしまうんですよ」私は嬉しかった。  「あいつはせっかちだから。なんでも急いで結果を出したがる。小さいときからだよ」  「お義父さまはなんでも美味しいって褒めてくださる。言葉で伝えてくださることだけでも私は幸せモノです」  「ははは。当たり前のことを言っただけだよ。そうだ、今日も映画見ようか」  春人を待つ間、私と康彦さんの至福の時間。それは映画だった。  20世紀の古いフランス映画からハリウッドモノまで、康彦さんの映画の知識は半端ないほどいっぱいあって、ソファーでワインを飲みながら時には笑い、時には泣いた。  こうして2人で映画を見ることは背徳感を感じるけれど私には安らぎの時間になった。  時にはあまりの感動の涙のあまり康彦さんの胸をかりて泣きすがることもあった。  もちろん春人には秘密のことだ。
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