第7章 相合傘

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第7章 相合傘

 6月も後半になって梅雨時も真っ最中のころだった。  夕方になって急に雨が降り始めた。私はロッカーにストックしてある折り畳み傘を持ち出した。  駅につくと改札で康彦さんを見つけた。傘がないようで困って駅の庇で思案しているようだった。 「お義父さん、お疲れ様です、傘ないんすか?」 「いやー天気予報はもっと遅くに降り始めると言っていたんだが・・・やられちゃったね」康彦さんの格好いいブランドスーツも雫をかぶっていた。 「傘、一緒に入りましょう、ちょっと2人には小さいけど」私は言った。 「悪いなあ、じゃあお礼に今日は外食でもしますか、私奢りますから」康彦さんは言う。 「でも春人が帰ってきますから」 「たまにはいいでしょう、ではさっと済ませて春人の帰る前に帰りましょう」 「ほんとうにいいんでしょうか?」  「なあに、駅前のほら、あの焼き鳥屋、たまには外の食事もいいでしょう、花音ちゃん毎日料理頑張っているから、今日くらいはね、ここであったも偶然。さ、行きましょう」  私たちは駅前で評判の焼き鳥屋に入った。  私たちは久しぶりに日本酒の大吟醸で乾杯をした。  「式の方は順調に進んでいますか?」康彦さんはなぜか苦笑いで訊いた。  「それがそのう・・・春人も疲れているみたいで一向に進んでいないんです」  「そうか、あいつも忙しそうだからな、本当に親としても申し訳ない」  「そんな、康彦さんも春人も悪くない。ただ春人と時間が取れなくて」  「それはあいつの言い訳だな、帰ってもどんなに疲れてても夫婦は話し合わないといかん。夫婦の会話がないんじゃ花音ちゃんも心配でしょう」康彦は言った。  「失礼ですが、お義父さまは別れた奥様とは良くお話になっていたんですか」  「あちゃー、それを訊く? うーん、もう春人が生まれて小さいときには仮面夫婦になったかな、やっぱり時間がなくてね、若い時はもっとガツガツ働いていたから、時間的に余裕がなくってね、すれ違いってやつだな、いまも後悔しているよ、気付いた時にはもう愛情のかけらもなくて春人がかすがいになってくれただけの結婚生活だったな」  「そうだったんですか」  「だから反面教師、そんなすれ違いにならないよう君たちも会話を絶やさないように、頑張ってほしいんだ」  「私はお義父さんと話している時の方が楽しいかも。映画も音楽も詳しいから」  「ははっは、そりゃ嬉しいね」  そんなこんなで私たちは楽しい話をして店を出た。    久しぶりの相合傘。傘を持つ手で二人で手をつなぎ合った。  もちろん今日のことは春人に内緒。
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