第9章 発覚

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第9章 発覚

 あの日義父と結ばれてしまった私は土曜の情事が恋しくなった。  それから毎週土曜になると、康彦さんと私は性行為に及んだ。  家でもお構いなしだ。康彦さんの寝室に入ってベッドで日中から情事に溺れた。  そんなことが続いたある日の土曜日、私たちはいつものように体を繋いでいた。  「ガチャリ」寝室の扉が開いた。  「何やってるんだよ、2人とも!」春人の大きな叫び声。  「ち、違うの、誤解しないで」私の必死な弁明。  「早上がりで帰ってきたらこのざまだ! オヤジ!なんてことしてくれるんだ!」  春人の叫びも当然だった。  「悪かった、でもこういうことなんだよ、春人」と康彦さん。  「なにがこういうことだ!」春人は踵を返してキッチンへと向かった。  取り出してきたのは大きな出刃包丁だった。  「許せねえ」春人のどすの利いた声がこの家にこだまする。  「ちょ、ちょっと何するの、春人! やめて!!」私は叫んだ。  「うるせいやい、オヤジ、覚悟!」春人は鬼の形相でこちらへ向かってくる。  (ブスリ!)春人は康彦さんの腹を刺した。  血がいっぱいに吹き飛んだ。  「う、うー」康彦さんはうつぶせになって倒れた。  「春人、刺すなら私を刺して、いけないのは私なの!」  「畜生! お前を刺せるわけないだろ、やべえ俺、人刺した!」そう言って春人は家を飛びだしていった。  きっと動揺していたのだろう、捕まるのが怖かったのだろう、春人は必死で走った。  春人は駅前からの大きな通りを猛ダッシュで横断していたところを車にはねられた。 私は春人が車ではねられたことを知らず、119番に電話をして救急車を要請した。  「康彦さん! ごめんなさい! みんなあたしのせいなの」私は泣きすがった。  もはや虫の寝息だった。私はそのおびただしい血に卒倒され気を失った。
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