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「まだお互い若かったわ。主人とは幼馴染でね、いつの間にか互いに惹かれて、気付けばいつでも寄り添っていた」 ──お前には赤がよく似合うなぁ。 「そう、祝言の時、笑顔で言ってくれたの。貴方みたいな屈託の無い笑顔で。嬉しかった」 それから赤を身に付けるようになったと言う女。 「ほう、流石ご主人、見る目があるねえ」 「馬鹿にしないで、貴方よりは目利きの持ち主よ」 「ははっ!言われちまったぜ」 それからも淡々と、ただ静かに彼女から紡がれる物語。 「でもね、中々子が成せなかったのよ。私の身体がいけなかったのか、いつまで経ってもね」 己の腹に手を添えながら呟く。 女なのに子が成せない体。どれだけ辛い事なのだろうか、女に生まれたからこそ感じられる幸せを彼女は得られなかった。 だが、それが数年と経っても、夫は一切彼女を責めなかったと切なげに言う。 「自分の子が欲しいだろうに、私だけで、十分だって言うのよ。可笑しい人よね。それから数年経って、養子を取るかって話が出たの。切り出したのは勿論私」 女の視線は相変わらず外へ向けられたままだ。雨は未だ振り続いている。ぽつぽつ、ぽつぽつと。 「良いご主人だったんだなぁ。ぞっこんだった訳だ。隅に置けない女だねぇ、へへっ」 「良すぎたわよ。本当、なんでこんな女に付いちゃったのかしらね」 自嘲を溢す女。ちなみにそうこう話しているうちにも彼の骨組み作業は終わり、和紙の再生に差し掛かっていた。 「そして彼は養子の事を快く受け入れたの。あんなに私だけで良いって言ってたのに、突然よ。ああ、別に嫉妬とかしてないわよ、ただ純粋に気になったの」 それからすぐ、身寄りのない男の子を一人引き取ったと言う彼女らの故郷は田舎で、富もなく捨て子が沢山いたらしい。 所謂、貧民街に近かったのだろう。 養えない程に豊かじゃなかった故に、餓死する子がちらほらいたと。人間生きていくのに必死だったと言うことか。 「育ても出来ないくせに産むなってあの時は女達を片っ端から憎んでいたわ。産みたくても産めない人がいるのにって。まさにあそこは地獄だった」 それでも愛する夫がいたから、それだけでなんとかやって来れたと言う女の瞳は雨ではなく、遠くを見つめていた。 「……酷ぇ話だなぁ。そんな所があるなんて信じられねえ。江戸が天国のようだぜ」 「本当にそう。まあ、それから男の子に私達はお互いに与えていた倍の愛情を持って接していたわ」 男の子は純粋にすくすく育ってくれたと言う。貧しい時には子に己らの食べ物を与えて、自分達の腹は肥やせなくともそれでも笑顔の耐えない家庭だったらしい。 「それから数年よ、たった数年。夫が突然倒れて、床に()せりっきりになったの」
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