剛力! 肉体言語!

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剛力! 肉体言語!

 清海は悩んでいた。 「どこだここは?」  目を覚ましたら見知らぬ小船の上だった、どうやら小船は川に流される途中で桟橋に引っかかっているらしい。なぜ自分がここにいるのか見当がつかなかった、 「たしかモデナについてから酒場で飲んでたはずだが……、その後酒場のやつらとケンカして、おっぱい飲んで、ねんねして……」  そこまで考えある一つの結論に達した。 「どうやら泥酔したまま川に流されたらしいな」  小船を降りて清海は歩き出した。ひとまず自分がどこにいるのかを確認しなくてはならない。 「結構流されたのか? 土地勘が無くて全くわからないとは困ったな」  船を下りて桟橋から見える道を歩いていくと街が見えてきた。 「おお、僥倖だ。あそこで場所を確認しよう」  清海は街へと向かっていった。 「くそっ! 悔しいのね!」  ニューニャは怒っていた。 「まぁまた見つければいいんベルク」  ベアトリクスは言った。 「大体ベアトリクスが裏切るからいけないのね!」 「ニューニャが依頼量を渋ったのが悪いッヒ。あの御仁はもっとお金をくれるって言ったからそっちについただけッヒ」 「うぐっ……」  痛いところを突かれニューニャは引き下がる。六郎達を取り逃した後、ニューニャは再度代金を支払いベアトリクスを雇いなおしていたのだ。 「とにかく、今度は多めに払ったんだから絶対に裏切らないのね!」 「裏切らないッヒ、多分」 「信用できないやつなのね……」  ニューニャは憤った。 「ところであの二人を追わなくていいッヒ?」 「ベアトリクスは六郎に勝てても、私はあのフィオナとか言う女と勝負がつかなかったのね、もっと強くなる必要があるのね!」ニューニャはミルクを飲みながら続けた。 「だからママに会いに行って強くなる方法を聞くのね!」 「ああなるほドルフ、じゃあそのママのところへ向かうッヒ」  清海が街に入るとそこは随分と落ち着いた雰囲気の街であった。 「モデナと比べれば活気があるわけじゃないが、こういうのも悪くないな。とりあえず飯にするか」  適当に歩いて見つけた酒場に入る。小さな酒場だがなかなか小ぎれいにされており、客層も悪くはなさそうだ。 「なにかオススメはあるかい?」  清海は店主に言った。 「オススメか、ローストビーフなんてどうだい?」 「じゃあそれを」  椅子に腰掛けるとギシギシとよく軋む。巨体の清海が古い椅子に座るといまにも壊れそうだ。 「金もないな、仕事を探さないと」  清海がそんなことを考えていると、店主が料理を持ってきた。 「はいローストビーフだよ」 「ありがとう、ところでこの辺で仕事の募集の話とかはないか?」 「仕事か、ちょっと待っててくれ」  店主は奥に引っ込むと、一枚の紙を持ってきた。 「あったぞ、今朝から募集が入ってるんだが、『ダンシング牧場』で家畜の世話係を募集しているらしいぞ」 「牧場だって?」 「ああ、この街では一番大きな牧場だな。ここの肉もその牧場から仕入れてるんだ」 「じゃあ後でそこに行ってみるよ」  話を終えローストビーフを口にする。 「うまいな、今まで食べたどの牛肉よりもうまい。シンプルな料理であるローストビーフだからこそ肉の本質がよくわかるものだが、どんな飼育方法で育てているのか少し興味があるな……」  そのとき、酒場の扉が思い切り蹴破られる。 「邪魔するぜぇ!」  ヒゲを蓄えた大柄な男がズカズカと入ってくる。 「おい、この店はローストビーフが評判らしいじゃねえか、そいつを頼む」  男は言った。 「生憎だが今日は品切れだよ」  店主は返す。 「ほぉ? あそこのデカブツがローストビーフ食ってるように見えるのは俺の見間違いか?」  そう言うと男はカウンターにナイフを突き立てた。  危険を感じ身構える店主。 「おいおい、そんなに食いたきゃ分けてやるよ」  清海が口を挟む。 「てめえに聞いてんじゃねえ!」  男は近くにあったグラスを清海に投げつける。しかし、清海はそれを難なくキャッチした。 「全く、いらいらしてると前髪が後退するぜ?」  清海は言った。 「後退してんのはてめえだろうが!」 「俺のは剃ってんだよ!」  清海は激昂した。 「舐めやがって、ぶっ殺す!!」  男はそう言うとナイフを取り出し清海に近づいた。 「死ねや!」  清海危うし! いくら巨体の清海といえどナイフのリーチが追加された暴漢の方が有利であることは疑いようもない! 「脱臼拳!!」  しかし、突如清海の腕が伸び男の顔面を殴り飛ばす。吹き飛ばされた暴漢は近くのテーブルを破壊しながら突っ込んだ。 「腕が……伸びた?」  店主は目を丸くする。 「いてて、関節を外すことによりリーチを伸ばすこの技を使うことになるとはな。悪いがテーブルの修理代はそいつからもらっといてくれ」清海は腕の外れた関節を治しながら続けた。 「じゃあな、ローストビーフうまかったよ」  料理の代金を置いて清海は酒場を後にした。  ニューニャとベアトリクスはある建物の前に来ていた。 「着いたのね」 「ニューニャ、ここって娼館でッヒ?」 「そうなのね」 「あっ……(デッヒ)ふーん」  ベアトリクスは察した。  ニューニャは娼館の扉を叩く。 「だれかしら?」  中から出てきたのはきわどい露出で肌が透けるような服を着た、四十代くらいの男であった。 「えっ……????」  ベアトリクスがギョッとする。 「あら~、ニューニャじゃな~い」  男は言った。 「久しぶりなのね!」 「ニューニャ、ここって……?」  嫌な汗がベアトリクスの額に浮かぶ.。 「男娼館なのね」 「サキュバスのハーフの親はニューハーフなんでッヒね……」 「違うのね! この人はこの店の店長なのね! ママの場所を聞きに来ただけなのね!」  ニューニャは言った。 「社長さんを探してるの? 今日は多分牧場の方にいると思うわよ」 「ありがとうなのね! 早速行ってくるのね」 『おい、なにしてんだ! 早くこいよ!』  娼館の中から荒々しい男の声がする。 「あら~、今いきますわお客様。じゃあねニューニャ」  そう言うと男は館の中へ戻っていった。 「じゃあ牧場へ向かうのね」 「なんかエネルギー使ったンベルクね……」  清海がダンシング牧場につくと門に張り紙があるのを発見した。 『牛の世話をしてくれるたくましい方募集中。条件、ベンチプレス:五百キロ・百メートル走:七秒・二本指でクルミが割れる人』 「よし、思ったより条件軽いな!」  門を開け清海は牧場に入っていく。門に設置されていたのか来客を告げる鐘が鳴った。その音を聞きつけ一人の女が清海の元へ歩いてくる。 「あらこんにちわ、仕事の募集を見てきてくれたのかしら?」  そう言った女の頭には角が生えていた。 「そうだ、家畜の世話だと聞いたが」 「ええ、前の世話係の人が定年でね、引退しちゃったのよ。見たところかなり肉体には自身がありそうね」  女は清海の体をじろじろ見ながら言った。 「まぁな、多少の労働ならこなせるつもりだ」 「自己紹介をするわ、私は牧場主のカタリナ。あなたは?」 「俺は清海だ、異世界から来て旅をしている」 「こっちの人ではないのね、じゃあ早速やり方を教えるから牛のところへ行きましょう」  カタリナに連れられ清海は家畜小屋に入っていく。  柵から顔を出す牛達の独特の獣臭が清海の鼻を襲った。 「やはり臭いな」 「そのうち慣れるわ、外からも見えたと思うけどここはいろんな家畜を飼育してるの、牛や豚、羊や鶏なんかもね」 「具体的に俺はなにをすればいい?」 「他にも世話係はいるからその日のシフトに従って行動してくれればいいわ、今日は練習ってことで乳搾りでもやってもらおうかしら」  そう言うとカタリナは牛を一頭外に連れ出した。 「じゃあこの子の乳搾りをお願い」  カタリナは搾乳用のバケツを準備する。 「このバケツに入るようにね、やってみて?」 「わかった」  清海は牛の横に屈み、乳を掴む。 「ブモォオ!」  清海の握力に驚いたのか牛は心穏やかではなさそうだ。 「そりゃ!」  清海は乳を搾りこむ。その途端まるで決壊したダムのように牛乳が放出される。 「ちょっと! 出しすぎよ!」  萎びてしまった牛の乳房とは対象的にあっという間にバケツが満タンになってしまう。 「こんなもんか」  清海が手を離すと牛はその場に倒れこんだ。急激な水分の消費で体内の水分バランスが崩れてしまったのだ。 「しまった、やりすぎたか!? 水を飲ませてやらないと!」  そう言うと清海は印を結び始める。 「ちょっと、なにをする気!?」 「風遁・局所豪雨の術!」  清海が忍術を使うと、倒れた牛の上に休息に雨雲が出現する。 「あれは!?」  カタリナは仰天する。突如としてこんな小規模な雨雲が発生するなど見たことが無いからだ。  雨雲は牛の頭上にたどり着くと即座に雨を降らせた。 「ブモオオ……」  雨を体に受け牛の体は潤いを取り戻す。脱水症状から回復しているのがわかった。 「牛が元通りに……、あなた魔法まで使えるの?」  カタリナは言った。 「魔法ではないが、まぁ似たような技術だ」 「魔法使いでなければシャーマンかしら? こんな術は聞いたことも無いけど」 「どうする、この牛はもう休ませたほうがいいか?」 「そうね、でも安心したわ。あなたならこの仕事を任せられそうだし」そう言うとカタリナは少し考えるようなしぐさを見せて続けた。 「実はあなたに頼みたいことがあるんだけど」 「なんだ?」 「実はこの牧場にいるミルクドラゴンから搾乳をして欲しいの」 「ドラゴンだと? 普通の家畜ではなさそうだな」 「ええ、ミルクドラゴンは家畜用に品種改良された種なんだけど、気性が荒くて普通の人には手がつけられないの」 「新人の俺に頼むってことはよっぽどらしいな」 「ミルクドラゴンの龍乳は希少なの、流通させればかなりりの儲けが出るわ。もちろんあなたにもその分は支払わせてもらうけど」  カタリナは半ば興奮気味に言う。 「面白そうだ。ちょうどエネルギーをもてあましてたんでな、引き受けよう」  清海の返答にカタリナは喜んだ。 「それじゃあ早速ミルクドラゴンのところに行きましょう」  牧場の中にひっそりとたたずむ鋼鉄の建物、ミルクドラゴンはそこに幽閉されているのだ。 「この中にいるのか?」  清海は慎重に建物に近づく。 「一応鎖で繋いではいるけどいつ暴れだすかわからないわ。気をつけて」  そう言うとカタリナは扉に手をかける。「ギィイー」っという音を立てて開くさまは、いかにも封印されているという印象を強くさせた。 「ギャオオ!」  扉の先にいたのは白い皮膚に黒斑のドラゴンだ。これがミルクドラゴンであろうか。 「なるほど、随分凶暴そうだな」 「気をつけて、既に何人かの職員が挑戦して命を落としているわ」 「まぁ、試してみるか」  清海は意を決し、ドラゴンへ近づいた。 「こっちが牧場なのね」 「そういえばなんで娼館の人が、ニューニャのママの居場所は知ってるんでッヒ?」 「あの娼館のオーナーはうちのママなのね。ママはこの街のいくつかの施設を経営してるからそのうちの一つなのね」 「やり手サキュバスなんでッヒねぇ、でもサキュバスなら娼館で働いたほうがいいんじゃないッヒ?」 「なんでなのね?」 「だってサキュバスの主食は人間の精気(隠語)って聞いてるッヒ」 「それは嘘なのね! 聖職者のやつらが私達を陥れるためのデマなのね! 本当に堕落してるのはあいつらなのね!」  ニューニャは激昂した。 「わわっ、ごめんベルク……、許して欲しいッヒ」 「だいたいサキュバスの主食は牛乳や動物性乳製品なのね、だから私のママは牧場をメインに経営してるのね」 「そうなんでッヒねぇ」 「着いたのね」  二人が牧場に着くと張り紙がしてあるのを見つけた。 「どうやら新しい世話係を探してるみたいなのね」  そう言うとニューニャは門を開けて入っていく。 「牧場の臭いがするンベルクねぇ」 「ママがどこにいるのかを探すのね。とりあえず牧場内を見て回ってみるのね」  二人は牧場内を歩き始めた。  清海はミルクドラゴンに至近距離まで迫っていた。 「動くなよ……」  鎖で繋がれているとはいえ、牛よりもはるかに大きい生物だ。油断はできないのである。 「ギャオオ!」  威嚇するドラゴン、その声にカタリナは身構える。 「大丈夫? 無理だったらやめていいから」  カタリナは心配そうに言った。 「大丈夫だ、よし絞るぞ」  清海が側面に回り乳を搾ろうとしたそのとき。 「ギャオオ!」  ドラゴンは暴れだす。 「くそ! 暴れるな!」  清海はドラゴンを必至に押さえつけようとするが弾き飛ばされてしまう。 「ぐあっ!」 「大丈夫!?」  カタリナは清海の元へ駆け寄ろうとするがそれを阻むかのようにドラゴンは動き出す。建物に取り付けられた鎖を引きちぎり、出口の方へと走りだした。 「まずい! 逃げるつもりだ!」 「だめ! 止まって!!」  清海とカタリナが追いかけようとするが、ドラゴンは扉を破壊し外に出てしまう。 「ママ見当たらないのね、どこに行ったのね?」 「本当に広いッヒね~」  二人がそんな会話を続けていると遠くから鉄を破壊するような大きな音がした。 「なんの音でッヒ!?」  二人は音の方向に振り向く。視界に映ったのは一匹のドラゴンだった。 「ミルクドラゴンが脱走してるのね!? まずいのね!」 「えっ、ドラゴンも飼育してるんでッヒ?」  ドラゴンは二人に気がつくと一心不乱に突進を始めた。 「やばいのね! ドラゴンに体当たりされたら死ぬのね!」 「無理だンケルク! あの巨体は回避はできないッヒ!」  二人はドラゴンに大して身構えた。 「ギャオオ!」  危うし、ドラゴンまで数十メートルの距離である。  その時、ドラゴンの横を並走するかのように男が一人飛んでいた。 「あっ! だれかが飛んでいるのね!」 「あれは!? 鋼鉄の板に乗っているッヒ!?」  ドラゴンの横を並走ならぬ並飛行しているのは清海であった。彼はドラゴンが破壊した建物の扉を放り投げ、その上に自ら飛び乗ったのである。 「普通に走ったんじゃさすがに追いつけないからな、乗りやすいものがあって助かったよ」  そう言うと清海は乗っている扉を右足で叩く、まっすぐ飛んでいた扉は風を受け鋭く軌道を変え、ドラゴンに向かって突っ込んだ。 「ギャオオ!?」  清海の乗った鋼鉄の扉はドラゴンの脳天に直撃する。凄まじい衝撃にバランスを崩したドラゴンは転倒した。 「まったく、随分とやんちゃなトカゲだな」  清海はそのままドラゴンの顔面にとび蹴りを入れる。強烈な一撃を食らいドラゴンは完全に沈黙した。 「つ、強いのね……」 「てゆうかめちゃくちゃ大きいンベルク……」  空飛ぶ扉に乗った清海の勇姿はニューニャの目にはまるでアラビアンナイトに出てくるヒーローの様に映った。 「ドラゴンを容易く倒すとは何者でッヒ……?」  ベアトリクスが言った。 「ちょっと~、大丈夫?」  遅れてカタリナが走ってくる。 「ママ!」  カタリナに向かってニューニャが走り出した。 「ニューニャ!」  ニューニャとカタリナは抱き合い再会を喜んだ。 「今日は情報量が多いッヒねぇ……」 「おや、またお客さんか?」  ドラゴンを静かにさせた清海はニューニャ達の方へ歩いてきた。 「紹介するわ、私の娘のニューニャよ」 「よ、よろしくなのね!」  頬を紅潮させながらニューニャは言った。 「私はベアトリクス、ニューニャに雇われた傭兵でッヒ」 「俺は清海だ、今日から飼育係として働かせてもらうことになったからよろしくな」 「新しい人なのね!」 「じゃあ清海さん、ドラゴンを建物にもう一度鎖につないでおいてくれるかしら? スペアの鎖はさっきの部屋に用意してあるから、それが終わったら今日の仕事は終わりでいいわ」 「わかった、まかせてくれ」  そう言うと清海はドラゴンを引きずって建物へ戻っていった。 「とってもかっこいいのね……」 「か、かっこいいッヒ?」  ベアトリクスは首をひねった。 「ニューニャ、帰ってきたってことはなにか用事があるんじゃないのかしら?」  カタリナは言った。 「そうだったのね! 実はパパの仇を見つけたのね!」 「あら、仇はとれたの?」 「いろいろあって取り逃がしてしまったのね……、でも次は必ず勝つのね。そのために強くなる方法を教えて欲しいのね」  ニューニャの言葉にカタリナは考え込んだ。 「わかったわ、今よりもっと強くなる方法を教えてあげる。だけど辛い修行になるわよ?」 「かまわないのね! パパの仇を野放しにはしてはおけないのね!」 「なら明日から修行ね。今日はもう休みなさい、疲れてるでしょう?」 「そうするのね。ベアトリクス、宿舎の場所へ案内するからついてきて欲しいのね」 「わかったンベルク」  そう言って二人は歩き出した。
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