怪盗! あなたの心です!

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怪盗! あなたの心です!

「あれは、伝書鳩か?」  六郎は鳩の足から手紙を外して読み始める。 「十蔵からか」自分が通ってきたあのピラミッドを鳩が通ってきたとは少々信じがたいと思いながら続きに目を通す。 「信長公が異世界との交易を考えているからそれぞれの地域について調べろだと?」 「だれ信長公って?」 「俺の所属している組織のクライアントだ。日本において今一番上り調子の人でな、あと数年すれば全国統一も成し遂げるだろう」 「へぇ」 「承った、後日連絡する」と六郎は手紙を書き、鳩の足に結び付けた。  鳩は飛んできた方向へと踵を返して戻っていく。 「無事にたどり着けばいいが」  それからしばらく歩いていると、小さな村が見えてくる。 「なんだあの村は、地図にあったか?」 「えーと、地図には無いみたい。新しい村かも」  馬車はのろのろと村に入っていく。門をくぐった瞬間十数人の小さな人影が馬車を取り囲んだ。 「止まれ! お前達は何者だ!」  馬車を取り囲んだ者達は身長四十センチほどの小人達で皆一様に農作業用フォークを構えている。 「小人だと? 待て、怪しいものじゃない、俺達はただの旅人だ」  六郎は弁解する。 「どうだかな、馬車の中を見させてもらうぞ」  小人達は六郎達にフォークを向けたまま、乱暴に馬車の中身を確認する。 「なんだこの大量の金は! 二人旅にしては随分多いんじゃないのか?」  レースの賞金を見て小人達は怪しんだ。 「ちょっと! 私のお金に触らないでよ!」 「お前達の身なりは商人には見えんし裕福な身なりでもない。なのにこの金は怪しいぞ、全うな方法で得た金じゃないんじゃないのか? そうだろ!」 小人達は声を荒げる。 「それは戦車レースでスプリングノドカが勝ったから大もうけしただけで……」 フィオナは言った。 「スプリングノドカが勝つわけないだろ!! いい加減にしろ! こいつらは怪盗の一味に違いないぞ、しょっ引け!!」 「うりゃーー!」  小人達は金属製の網を馬車に被せてくる。 「ちょっと、やだ!」 「うおっ、やめろ!」  辛くも二人はまんまと捕らえられてしまった。 「牢屋にぶちこんどけ!」  指導者らしき小人の指示で二人は運ばれていった。 「こらーー! 出しなさい!」  縄で両手両足を縛られたフィオナと六郎は鉄格子の牢屋に入れられていた。 「黙れ! この盗人どもめ! そこで町から役人が来るのを待ってるんだな」  そう言うと小人は牢屋から出て行った。 「もー、なんなのこれ」  芋虫のように転がりながらフィオナは文句を言った。 「あの小人達は何者だ? あれもゴブリンみたいに俺達とは違う人種なのか?」  同じく芋虫のようにされた六郎が言った。 「彼等はインプよ、見てわかると思うけどゴブリンよりももっと小さい種族なの。あんまり他の種族とは関わらない人達だからどんな生活してるから詳しく知らないけど。あとここに急に村が出来てたのも多分国に申請とかしてないからだと思う」 「ああ、なるほどな。しかしやつらの言う怪盗とやらが気になるな」 「てゆうかなんでそんなに冷静なの? 私達捕まってるんだよ?」  フィオナは転がり続ける。 「お前はな、俺はまだ捕まっちゃいない」  そう言うと六郎はもぞもぞと体を動かしだす。次の瞬間、ゴキゴキと音を鳴らし始めた。 「うわっ、なにやってんの?」 「まぁ見てろ」  不健康そうな音を立てながら六郎は体を動かすと少づつ縄が解けていく。 「き、キモっ……」  まるで害虫を見るような目つきでフィオナは六郎の行動を見守った。 「よし、解けたぞ」 「えっ、どうやったの?」 「関節を外したんだよ、こういうときのために訓練してたんだ」 「関節を? こわ~」 「失礼なやつだな、それなら役人に解いてもらうのを待ってろ。じゃあ俺は行くぞ」 「いや、待って! 解いてよ!」  仕方のないやつだと六郎はフィオナの縄を解く。 「ああ~、体が痛っ」  自由になったフィオナは凝り固まった体をほぐす。 「しかし見張りもつけないとは無用心なやつらだな、鍵はかけられているから安心しているんだろうが」 「でも縄は解けてもどうやって出るの? ここ窓も無いし」 「大丈夫だ、鍵開けくらいできる」  六郎は口の中からはりがねを取り出すと牢屋の鍵穴に差し込んだ。 「ま、まるで人間のホームセンター……」  六郎の特殊技術にフィオナは感嘆する。 「開いたぞ」  牢の扉を開け二人は外に出た。 「とりあえず隠れよう、また見張りがくるだろうからな」  二人は外に出ると素早く建物の陰に隠れた。 「私達の馬車と荷物を探さなきゃ」 「そうだな、幸いこの村はそれぞれの家と家が近いから屋根の上を移動しよう、そこからなら探せるはずだ」  二人は身を低くしながら屋根に上った。。  インプ達も背が低いせいか二人に気づくものはいなかった。ほとんどのインプは慌ただしそうに走り回っているのが見える。 「なんというか、他のことに手一杯というかんじだな。例の怪盗か?」  六郎は言った。 「急げ! やつらに備えろ!」  インプ達は口々に言う。 「やつらってことは、複数人いるのかな? その怪盗っていうのは」 「おそらくそうだろうな」  二人がカタツムリのように村を散策していると大きな建物のそばに馬車が放置されているのが見つかった。 「あれは俺達の馬車だな、荷物は無いようだが」 「お金なくなると困るなぁ」 「横にある建物は倉庫か? 近づいてみよう」  二人は建物の屋根に乗り移った。 『貴重品は運び込んだか?』 『九割ってところだ、もう少しで終わる』 『奴らが来るまでに全部運びこんでおかないとな、ここの警備ももっと増やしたほうがいいだろう』  複数人の会話が建物内から聞こえてくる。 「やはりここは倉庫らしい、しかし一箇所に物を集めるということはやはり怪盗かなにものかの略奪を恐れていると見て間違いないな」 「じゃあ私達の荷物もこの中に?」 「おそらく、ちょっと待て」  六郎は屋根に耳を当てた。 「二、三……五人だな」 「音でわかるの?」 「ああ、異なる足音が五人分だ。何人か外に出るのを待とう」 『よし、それじゃあ俺達は門の警備に戻る、後でまた来るからここは任せたぞ』  話が終わると四人のインプが外に出て行った。 「今だ」  六郎とフィオナは屋根から振り子の様に素早く動き建物に突入する。 「な、お前達! なぜここにいる!」  インプはフォークを突き出し構える、しかし六郎はフォークを掴んでインプごと振り回した。 「うわっ!」  インプは勢いよく振り回され荷物の山に放り投げられる。 「だ、だれか……!」 「静かにしろ」  インプは助けを呼ぼうとするが、六郎はフォークを構えインプの首を捉える。 「フィオナ、扉に鍵をかけてくれ」 「オッケー」  すかさず施錠を行う。 「お前ら、どうやって牢屋から出た?」 「そんなことを知る必要はない。俺達の荷物はどこだ?」 「うるさい盗人共め! どうせお前達なんて処刑される運命なんだ!」  インプは六郎に怒号を飛ばした。 「あっ、金塊だ。すご」 「おい、さわるな!」 「やはり貴重品も全てこの中に入れてるのか、怪盗とかいうやつらはそれを狙ってるんだな?」 「しらばっくれるな! お前らも一味なんだろう!」 「もう少し静かにしろ」  六郎はフォークを皿に近づける。 「六郎、荷物あったよ」  フィオナが荷物を拾い上げる。 「でかしたぞ、しかしこのままじゃ馬車に積んで逃げるのは難しいな。どうしたもんか」  その時、外からインプ達の声が響いた。 『出たぞ!! 怪盗共だ!!』 「なに!?」  六郎にフォークを突きつけられたインプは声を上げる。 「怪盗だと? ちょうど良い、この混乱に乗じて逃げられるかもな」 「どれどれ」  フィオナは入り口に取り付けられた窓を覗くと、インプ達の視線の先に五人の人影が立っているのが見えた。
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